研究課題/領域番号 |
19H01844
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
富岡 泰秀 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 上級主任研究員 (60357572)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 超伝導 / 量子常誘電 / 量子臨界点 / チタン酸ストロンチウム / 強誘電 |
研究実績の概要 |
今年度は、元素置換による強誘電性と金属状態の制御 [Sr1-yAEyTi1-xNbxO3 (a) AE = Ca, (b) AE = Ba] を行った。 浮遊帯域溶融 (floating zone; FZ) 法により、SrTiO3 において、SrをCaまたはBaで、同時に、TiをNbで置換し、強誘電体に電子ドーピングを施した単結晶 [(a) Sr1-yCayTi1-xNbxO3 (y = 0.015), (b) Sr1-yBayTi1-xNbxO3 (y = 0.05)] を作製し、これらの単結晶について、強誘電性が電気伝導に与える影響を調べた。また、(a) に関しては、極低温における輸送現象の評価を行った。 (a) では、電子ドープを施さない場合、強誘電キュリー温度 T(FE)C が約30 Kの強誘電体となるが、Nb置換により、x = 0.0005 程度でも、金属状態に変化する。金属中における強誘電転移では、キャリアによるスクリーニングによって電気分極は見えないが、何らかの結晶構造の変化 (例えば、Ti - O の結合角等) が伴われるため、これによる電気伝導性への影響があると考えられる。実際、T(FE)C は、抵抗率のアノマリーとして現れ、電子ドーピング量の増加とともに低下し、x ~ 0.002 になると、強誘電性が消失する。(b) においても同様に、x = 0 の場合、T(FE)C ~ 50 Kの強誘電体であるが、電子ドープにより、x = 0.005 付近になると、強誘電性が消失する。 (a) に関しては、極低温における超伝導転移温度 Tc を調べたところ、SrTi1-xNbxO3 の場合と同様に、Tc vs. n 曲線が超伝導ドームを形成し、また、最適キャリア濃度になると、SrTi1-xNbxO3 の場合よりも高い Tc = 0.55 K を示すことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示すように、CaまたはBa置換量によって強誘電性の強さを、また、Nb置換量によってキャリアドープ量を、それぞれ独立に制御できる Sr1-yAEyTi1-xNbxO3 (AE = Ca or Ba) 単結晶の作製、および評価を行ってきたが、とくに、AE = Ca に関しては、極低温の輸送現象評価までほぼ完了させることができ、結果として、強誘電性の増強とともに、Tc も上昇することを明らかにできた。AE = Ba についても、現在、単結晶育成と輸送現象評価を進めているが、AE = Ca の場合と同様に、高いTc など注目するべき結果が出始めている。 今後も、元素置換量を正確に制御できる浮遊溶融法の優位性を活かして、研究を進めていけば、本研究の目的である、強誘電性と超伝導の関係解明に至ることができると考えられる。 また、半導体物理に基いた、SrTi1-xNbxO3におけるキャリア散乱機構の解明も進行している。
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今後の研究の推進方策 |
チタン酸ストロンチウムの超伝導には、強誘電性が重要な役割を果たすことが明らかになったので、元素置換量を正確に制御できるFZ法を駆使して、今後も、SrTiO3 のSr, Tiそれぞれを、Ca (Ba), Nb (Ta) で置換し、強誘電性とキャリア量をそれぞれ制御する手法を用いて、強誘電性と超伝導の関連性解明を行なっていく。本年度は、特に、高いT(FE)Cを有するSr1-yBayTi1-xNbxO3の良質大型単結晶作製を中心的に行い、強誘電性が電気伝導に与える影響をはじめとして、極低温における輸送現象の評価を行う。また、Sr1-yBayTi1-xNbxO3の超伝導では、強誘電転移のために結晶の中心対称性が破れていると考えられるので、上部臨界磁場のエンハンスメントの有無などについて検討する。 SrTiO3 において、SrをLa以外の希土類金属元素で置換しキャリアドープを施した時、容易に金属化しない場合があるので、Sr1-xRExTiO3 (RE = Eu) の良質大型単結晶作製と絶縁体金属転移の探索を試みる。
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