研究課題/領域番号 |
19H01846
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
平田 倫啓 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (20776413)
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研究分担者 |
小林 晃人 名古屋大学, 理学研究科, 准教授 (80335009)
宮川 和也 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (90302760)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ディラック電子 / 有機導体 / エキシトニック転移 / スピン揺らぎ / トポロジカル絶縁体 / 量子ホール / 磁気触媒効果 / 核磁気共鳴 |
研究実績の概要 |
初年度は、有機導体のディラック電子物質 α-(BEDT-TTF)2I3 のとくに電荷中性試料に注目した。スピン物性の観点から素性がある程度わかっている 1) 面内磁場配置、そしてまだ十分に解明されていない 2) 面直磁場下量子極限において核磁気共鳴(NMR)測定を行った。その結果、ディラック電子の示す励起、相関、トポロジーに関係した微視的な磁性の理解を大幅に進展させる重要な成果を得た。
1):先に高圧下で報告した相関効果が、圧力掃引により劇的にコントロール出来ることを解明した。とくに減圧により、電子の速度の対数的なくりこみが低温に向かって強まること、そして極低温で発現するエキシトニックなスピン揺らぎが顕著に増強されることを明らかにした。現在、有効模型を用いた数値計算との比較検証を進めており、概ね結果を再現できている。今後はモデルの詳細を詰め、実験との対応を理論的に検証しつつ、磁場との関係性も明らかにしていく。
2):ゼロモードと呼ばれる状態に電子が閉じ込められた量子極限において、電子スピンの磁場応答をNMRで検証した。その結果、スピンの連続的な軸回転対称性によって「トポロジカル量子ホール絶縁体」とよばれる特異な状態が実現することを、微祖的な磁性の観点から直接的に示すことに初めて成功した。また、磁場によりエキシトニック凝集が安定化する「磁気触媒効果」の前駆現象が生じることを見出し、これがトポロジカルな絶縁体状態と共存する形で磁場制御可能なスピン揺らぎを引き起こすことを世界に先駆けて明らかにした。この発見は、ゼロモードの関係する量子ホール状態における多体効果を理解する上での新しい枠組みを提示する画期的なものであり、従来十分に検証されてこなかった微視的な磁性に注目した本研究ならではの大きな成果と言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
電荷中性 α-(BEDT-TTF)2I3 におけるトポロジカルな相関効果の研究は、当初計画に照らして順調に推移している。特に圧力依存性についての研究と磁場依存性についての検証に大きな進展が見られ、電子相図ならびにトポロジカル状態での微視的な磁性に関する理解が飛躍的に進んでいる。また、実験結果と理論モデルの対応検証についても、実験サイドと理論サイドの共同研究歩調を柔軟に合わせることで機動的に進められている。ここで得られた知見は、今後電荷ドープや元素置換の効果を検証する上での基礎となる重要な枠組みとなるため、この体制構築とその機能的な運用の成功は大きな意義をもつ。
一方、実験の主眼がマシンタイムの限られる強磁場下かつ測定時間の長くなる極低温域でのNMR測定にシフトしてきているため、マシンタイムと液体ヘリウム寒剤の制約からくる研究進展の速度低下が無視しえないファクターとして顕在化しつつある。特に後者は、近年の輸入コスト倍増に起因し不足が常態化しており、国内アカデミアに深刻な影響を及ぼしている。事態が短期的に改善する見込みは薄い。また、新型感染症の流行にともなうマシンタイム・移動の制約の影響も顕著で、年初来、最大の不確定不安要素となっている。これらを加味し、進捗は概ね順調と評した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度は、まず電荷中性試料の高圧下・量子極限で前年度に見つかった量子ホールトポロジカル絶縁体状態における新規な磁性について、NMR測定による探索と性質の解明を進めていく。とくに高圧下での実験を低圧域へと順次拡張して圧力依存性を検証することで、揺らぎの成長の仕組みを微視的な観点から相図上で明らかにしていく。また、面内磁場下で得られたデータと合わせ、実験を再現する理論モデルの構築と数値計算との比較をより一層進めていき、実験に対する有効な理論的解釈を早期に確立していく。測定では、まずは実施が容易な4He温度までの範囲で、東北大の超伝導磁石と低温装置を用いて進める。ヘリウムやマシンタイムの制約からこれだけでは測定が十分に進まない場合、東大の設備も適宜併用して測定を円滑に進めていく。
ただ、上述の通り、現在全世界的にCOVID-19の感染が拡大し深刻な影響を社会に及ぼしている。感染拡大防止のための移動制限措置が今後どのように継続・再開・拡大されていくのか、現状では見通せない状況にある。このため、年度の中盤以降の感染状況や社会情勢に合わせ、研究実施計画を柔軟に修正していく必要がある。現状しばらくは、昨年度得られた未解析データの理解を深めるための理論モデルの構築とシミュレーションの実施、実験との比較検討を中心に研究を進める方針である。都市間を移動せずに行えるオンライン会議を東北大、名古屋大、東大間で密に行い、実験結果の理論的解釈を深め、論文としてまとめる作業にも集中したい。限られた人的・物質的資源を可能な時期に最大限有効活用した研究展開を模索していきたい。
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