研究課題
本研究は、正味の磁化を持たないため機能性に乏しいと思われてきた反強磁性体において、空間反転対称性と時間反転対称性の破れがもたらす電気磁気効果に起因した新奇な光学特性(以後、電気磁気光学特性)を実験的に見出し、さらに、この電気磁気光学特性の電場制御の実現と解明することを目指すものである。本年度はまず、昨年度に見出した「電気磁気光学特性に基づく反強磁性ドメインの可視化」に関する追実験および理論的考察を行い、この研究成果をCommunications Materials誌で発表した。反強磁性ドメインを線形光学に基づき可視化できる本手法は、従来手法では困難であった反強磁性ドメインの外場応答の実空間観測を可能にする。そこで、本手法をスピン配列の異なる2種類の磁気四極子型反強磁性体Pb(TiO)Cu4(PO4)4とコリニア反強磁性体Bi2CuO4に適用し、これらの反強磁性ドメインの外部電場に対する応答を調べた。Pb(TiO)Cu4(PO4)4においては、外部電場による反強磁性ドメイン壁の移動が極めて遅く、例えば4 MV/mの電場を印加したとき、試料全域に渡ってドメインの反転が完了するには数秒の時間を要することが分かった。一方、Bi2CuO4の反強磁性ドメイン壁の移動は速く、同じ大きさの電場を印加したとき、Pb(TiO)Cu4(PO4)4に比べて少なくとも3桁短い時間でドメイン反転が完了することが分かった。これらの実験成果を国内の研究会にて発表した。上記のほかにも、電気磁気光学特性示す反強磁性体の探索を行い、10%近くの非相反二色性を示す銅酸化物反強磁性体の発見にも成功した。
2: おおむね順調に進展している
電気磁気光学特性を示す反強磁性体を新たに発見できたこと、および、電気磁気光学特性を用いて反強磁性ドメインの外場応答ダイナミクスの一端を明らかにできたことは、本研究課題を達成する上で極めて重要な成果であるといえる。そのため、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
本研究課題は次年度が最終年度となる。そのため、今後は、これまでに開拓してきた反強磁性体に焦点を絞り、各々の示す電気磁気光学特性(主に方向二色性)の全貌を明らかにすることを目指す。方向二色性の入射光方位や偏光に対する依存性をファイバー型分光測定装置を用いて明らかにするとともに、反強磁性ドメインの電場応答の電場方位依存性を温度可変偏光顕微鏡観察システムにより明らかにする。以上の実験結果を基に物質毎の電気磁気光学特性とその電場依存性、さらには反強磁性ドメインの電場応答の特徴を整理し、電場応答の支配因子を考察する。
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