本研究は、正味の磁化を持たないため機能性に乏しいと思われてきた反強磁性体において、空間反転対称性と時間反転対称性の破れがもたらす電気磁気効果に起因した新奇な光学特性(以後、電気磁気光学特性)を実験的に見出し、さらに、この電気磁気光学特性の電場制御の実現と解明することを目指すものである。
最終年度にあたる本年度ではまず、昨年度までの研究で見出した銅酸化物反強磁性体Bi2CuO4における巨大な方向二色性に関して、その詳細を明らかにする実験を行った。方向二色性とは、電気磁気光学特性の一種であり、光の進行方向の正負で吸収係数が変わるという現象である。吸収スペクトルの偏光依存性の測定および解析により、銅イオンと酸素イオンから成るクラスターにおける配位子場遷移が巨大な方向二色性の主要起源であることを明らかにした。さらに、特定の方向から光を入射した際の方向二色性の有無や符号が試料中の反強磁性スピン配列と強く相関することを利用して、偏光顕微鏡を用いて試料内のスピン配列の空間分布を可視化し、その外部磁場および外部電場に対する応答を調べた。その結果、反強磁性スピン配列の電場による180度反転及び磁場による90度回転に起因して、透過光強度が三段階に切り替えられることが分かった。すなわち、反強磁性体において、電気磁気光学特性の外場制御を介して三段階調光機能を実現できたということである。以上の成果をNature Communications誌で発表した。
このほかにも、擬一次元反強磁性体BaCu2Si2O7において約10%に達する方向二色性を観測し、その符号を冷却電場で制御できることを明らかにした。また、「電気磁気効果を示す新規反強磁性体Mn3Ta2O8の発見」や「方向二色性を用いた反強磁性秩序変数の観測」など、本研究課題を進める過程で得られてきた成果を論文として公表した。
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