研究実績の概要 |
Pbなどの超薄膜において、Rashba相互作用がもたらす新奇な2次元超伝導相が実現されていることを検証するための有力な方法の一つとして、近接させた磁性体の影響を調べることが考えられる。特に、スピンフィルターとなる強磁性体層を配置した障壁を介してトンネル結合させたPb超薄膜の2層構造試料を用いることにより、スピン三重項成分からの寄与を選択的に取り出すことが期待できる。前年度までの研究において、障壁層にNiを配置した場合でも、2枚の超伝導層の間にJosephson結合が存在することを示唆するという興味深い結果が得られていた。 本年度はPb/Sb/Ni/Sb/Pb積層構造中のNi層(0.4nm)の強磁性の検証を目的として、異常Hall効果や磁気抵抗のヒステリシスの測定から研究を開始したが、Ni層のスピン偏極を決定づける証拠を得ることはできなかった。他グループの研究において、我々のNi層よりも薄い超薄膜で強磁性状態が観測されているが、一つの原因として基板の違いが考えられる。 次に、磁性層を他の元素に置き換えた試料の作製に着手した。Pb超薄膜の上にSbのスペーサー層(1nm)を堆積させたのちにCr, Mn, Feのいずれかを堆積させた場合には、少量の堆積でPbの超伝導が壊れた。Pbに磁性体を直接乗せた場合のTcの減少率は、Kondo温度が低いほど大きく、Mn>Cr>Fe>Co>Niとなると予想されるが、Sb層のピンホールのせいでPb上に直接乗った磁性体が影響したものと思われる。一方、Coを用いて、Pb/Sb/Co/Sb/Pbb積層構造を作製した場合に、Co層がない場合よりも超伝導層間の結合が弱められていることを示唆する結果が得られた。
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