研究課題/領域番号 |
19H01850
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研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
伏屋 雄紀 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 准教授 (00377954)
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研究分担者 |
白石 誠司 京都大学, 工学研究科, 教授 (30397682)
徳永 将史 東京大学, 物性研究所, 准教授 (50300885)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピン軌道結合 / スピンホール効果 / スピン変換 / 磁気抵抗 / ランダウ量子化 |
研究実績の概要 |
前年度までに得られた研究成果を発展させ,今年度は次の研究成果を得た. (1)Biにおけるスピン変換に対する関心は,年々高まっている.本研究では,スピントルク強磁性共鳴を用いて,Ni80Fe20(パーマロイ)上に積層したビスマス薄膜のスピン変換を膜厚を変えながら詳しく調べた.従来研究とは異なり,大きなスピン変換トルク(スピン変換効果)の観測に成功した.これにより,本プロジェクトが掲げていた大きな目標が達成された.さらに,Biにおけるスピン変換では基板の影響が極めて重要であることが明らかとなった.以上の成果をAppl. Phys. Lett. から出版した(白石-伏屋共著) (2)Biのサイクロトロン共鳴の実験を独自に導入した拡張ディラック模型を用いて詳しく解析した.これまで量子振動の実験では明らかに出来なかった,最低ランダウ準位の性質を明らかにすることが出来た.双晶の寄与を磁気光学に基づいて明らかにできる水準にまで解析の精度を向上させた.(徳永-伏屋共同) (3)近年,トポロジカル物質科学の分野では,カイラルアノマリーと磁気抵抗,プラナーホール効果の関係に注目が集まっている.特に2020年に,Biのプラナーホール効果で,カイラルアノマリーを示唆する実験が報告され,にわかに注目が集まっている.我々は磁気抵抗の半古典論を拡張し,キャリア密度の磁場依存性を正確に取り入れることでランダウ量子化の効果を取り入れ,強磁場まで電流磁気効果を計算出来る方法を開発した.これにより,Biのプラナーホール効果の実験は,カイラルアノマリーを考慮しなくても説明できることを示した.以上の成果を Phys. Rev. B から出版した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画では,(1)スピン状態とスピン応答,(2)スピン緩和長,(3)量子極限,について研究を進めることになっており,この3点についてはすでに前年度までで基盤整備が整っていた.今年度はそれらを発展させ,具体的成果を得ることができた.特に,Biで大きなスピン変換トルクを得られたのは,本プロジェクトの大きな成果である.その他にも(5)磁気抵抗についても当初計画に沿って研究を進め,BiのみならずIV-VI族半導体の実験上の問題を解決することができた.加えて,カイラルアノマリーとプラナーホール効果に関して新しい知見が得られたのは,当初計画を超える成果である.(番号は計画調書の番号)
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は,本プロジェクトの総仕上げとして,次の研究を遂行する.(番号は計画調書の番号) (1)Biのスピン変換について,基板の影響が重要であることが明らかになってきたので,これをより詳しく調べる.ワイル電子系Cd3As2のスピン状態を明らかにする.Biのサイクロトロン共鳴の実験を推進し,結果を解析することで,これまで明らかに出来なかった,最低ランダウ準位のふるまいを明らかにする. (3)量子極限状態の磁化率をπ-matrix法に基づき計算し,実験結果の解析を行う. (4)(1)に関連して,スピン軌道結合に由来する表面状態,界面状態を明らかにする. (5)ワイル電子系の電流磁気効果(磁気抵抗,プラナーホール効果)を調べる. ワイル電子系,サイクロトロン共鳴の実験は,本研究を遂行することで浮かび上がってきた,当初計画にはない,より発展的な課題である.
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