研究課題/領域番号 |
19H01852
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
伊藤 哲明 東京理科大学, 理学部第一部応用物理学科, 教授 (50402748)
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研究分担者 |
小林 夏野 岡山大学, 異分野基礎科学研究所, 准教授 (60424090)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電流誘起磁性 / 電気磁気交差現象 |
研究実績の概要 |
1)非磁性物質の電気磁気交差現象の一般論を構築し、さらに単体Teにおいてどの効果が生じているかを実験的に解明した。時間反転対称性を持つ物質の磁化Mを磁場H、電場E、電流Iで2次まで展開すると、M=χH+aI+bEH+cEIと展開できる。過去に我々がTeで観測することに成功していた電気的入力下Te-NMRスペクトルシフトは、電気的入力に対して奇かつ一次で生じることからcEIの項で無く、従って、電流誘起磁性項aIと電場磁場双線形効果項bEHの2つの可能性がありうることを示した。さらにどちらが実験事実を説明するかを明らかにするため、今回新たに、磁場・電流の正負反転をさせながらTe-NMRを行い、その結果、TeにおけるNMRシフトは電流誘起磁性aI項によって生じていることを確定することに成功した。 2)ジャイロトロピック点群を有する系の電流誘起磁性テンソルの整理を行い、新たな電流誘起磁性を示す候補物質を見出した。カイラルな結晶点群を有する系では、Teで示したように、電流誘起磁性テンソルのトレースが有限値を持ち、平行電流誘起磁性が生じることが特徴となる。一方、極性を持つ結晶点群を有する系では、電流誘起磁性テンソル非対角項に反対称成分が現れ、垂直電流誘起磁性が現れることを提案した。実際、極性半導体CdSeに対しバンド計算を行い、ab面内に電流を印加すると観測可能なレベルの垂直電流誘起磁性が現れるはずであるという提案を行った。 3)高圧下ではTeのバンドギャップは閉じワイル半金属になることが理論的に予測されていたが、これまでの電気伝導による測定では表面に現れる金属的な状態との区別が難しく、検証は困難であった。今回赤外分光を用いて電子状態を測定することで、圧力下のバンド構造変化を測定することが可能となった。光学伝導度が周波数に対して線形の依存性を持つことからワイル半金属による金属化を実証した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
時間反転対称性を持つ物質の電気磁気交差現象の一般論を展開し、これと特殊NMR実験の結果を組み合わせることで、本研究課題の中心テーマである「電流誘起磁性」が単体Teにおいて実現していることを議論の余地なく完全に証明することに成功した。これは、新たな電気磁気効果である「電流誘起磁性」の実証であると同時に、その考察は電気磁気交差現象をより広い観点から捉えなおすものとなっている。 また、この電流誘起磁性テンソルの構造を群論的観点で整理しなおすことにも成功した。これにより本研究課題で当初着目していたTe、Seにおける、印加電流に平行に磁化が現れる「平行電流誘起磁性」のみならず、印加電流に垂直な磁化が現れる「垂直電流誘起磁性」が現れる物質があることを示し、バンド計算と組み合わせることでその候補物質を示すことに成功しつつある。 さらに、申請時においては発展的課題として掲げていたTeにおける高圧下ワイル半金属状態に対しても、実験実証に成功した。 以上複数の成果が得られており、「当初の計画以上に進展している」と判断できる。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度に構築したパルス電流印加下特殊NMR測定システムにより、継続してp型Teにおけるパルス電流印加下125Te-NMR測定を行い、p型Teにおける電流誘起磁性の議論の深化を行う。具体的には、電流印加方向を既に測定したc軸方向からab面方向に変えつつ、印加電流の反転・印加磁場の反転をしながらNMR測定を行う。このときに観測される125Te-NMRシフトの正負と、印加電流・印加磁場それぞれの正負の方向を比較することで、Teにおける電気磁気交差現象の完全解明を目指す。 また、同時にキャリアードープされた単体Se、極性半導体ウルツ鉱CdSeに対しても、同様のパルス電流印加下77Se-NMR、113Cd-NMR測定を行い、これらの物質の電流誘起磁性の性質解明を行う予定である。 なお、2020年度前半は、新型コロナの影響のため、実験が行いにくい状況になることが予想される。この間は、Te、Se、CdSeに対する第一原理バンド計算を行い、スピン分裂バンド、角運動量分裂バンドの定量的評価を行う予定である。これにより電流誘起磁性の期待される大きさを数値的に評価することを行い、電流誘起磁性の発現に決定な役割を果たすパラメーターの検討も行う予定である。
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