研究課題
コロナ禍ということもあり、主に第一原理バンド計算に注力し、三方晶Te、Seの電流誘起磁性の起源を議論した。今まで広く知られていた電流誘起磁性効果としてはRashba-Edelstein効果があげられる。この効果は、バンドのスピン分裂の大きさに比例し、さらに、このスピン分裂の大きさはスピン・軌道相互作用の強さに比例することが知られている。これに対し、第一原理バンド計算から、 三方晶Te、Seのバンド構造、並びに電流誘起磁性効果の性質を議論し、以下の特徴を持つことを明らかとした。三方晶Te、Seのバンド分裂は、スピン分裂ではなく、全角運動量分裂の性質を持ち、その分裂の大きさはスピン・軌道相互作用にスケールしない。実際スピン・軌道相互作用の大小が大きく異なるTeとSeで、バンド分裂の大きさそのものにはそれほど大きな違いは見出されなかった。一方、Te、Seの価電子バンドにおいては、全角運動量jz=±3/2のバンドが実現するが、H点においてはこの二つのバンドが混生し、この二つのバンド間にギャップが開く。このギャップの大きさはスピン・軌道相互作用の大きさにスケールし、Teの方がSeよりもはるかに強いギャップが現れることを見出した。さらに電流誘起磁性の大きさを、これらのバンド構造に基づいて数値計算したところ、Teの方がSeよりもはるかに大きな電流誘起磁性が現れること、ならびに、この電流誘起磁性は、バンド分裂の大きさにスケールするのではなく、H点における混成ギャップの大きさにスケールすることを見出した。これらのことは、通常のスピン分裂バンドに由来するRashba-Edelstein効果と、全角運動量分裂に由来する三方晶Te、Seの電流誘起磁性の背景メカニズムの違いを浮き彫りにするものである。
2: おおむね順調に進展している
2019年度より、時間反転対称性を持つ物質の電気磁気交差現象の一般論を展開し、これと特殊NMR実験の結果を組み合わせることで、本研究課題の中心テーマである「電流誘起磁性」が単体Teにおいて実現していることを議論の余地なく完全に証明することに成功した。これは、新たな電気磁気効果である「電流誘起磁性」の実証であると同時に、その考察は電気磁気交差現象をより広い観点から捉えなおすものとなっている。また、この電流誘起磁性テンソルの構造を群論的観点で整理しなおすことにも成功した。これにより本研究課題で当初着目していたTe、Seにおける、印加電流に平行に磁化が現れる「平行電流誘起磁性」のみならず、印加電流に垂直な磁化が現れる「垂直電流誘起磁性」が現れる物質があることを示し、バンド計算と組み合わせることでその候補物質を示すことに成功しつつある。2020年度においてはコロナ禍ということもあり、実験活動に大きな制限がかかってしまい、実験からの進展は多くはなかったものの、代わりに行った第一原理バンド計算からの、三方晶Te、Seの電流誘起磁性の起源の議論が大きく進み、本物質群におけるバンド構造の特長、電流誘起磁性のメカニズムを明らかとすることに成功した。以上を鑑み、「おおむね順調に進展している」と判断できる
2020年度は予定していた実験がコロナ禍で進展できなかった一方、第一原理計算に基づく、三方晶Te、Seのバンド構造の理解、電流誘起磁性の起源が大きく進展した。今後は、2020年度に予定していた以下の実験を進め、それらの成果を論文にまとめることを目指す。1)2019年度に構築したパルス電流印加下特殊NMR測定システムにより、p型Teにおけるパルス電流印加下125Te-NMR測定を行い、p型Teにおける電流誘起磁性の議論の深化を行う。具体的には、電流印加方向を既に測定したc軸方向からab面方向に変えつつ、印加電流の反転・印加磁場の反転をしながらNMR測定を行う。2)極性半導体ウルツ鉱CdSeに対して、電流誘起「軌道」磁性由来の非線形ホール効果の観測を目指す。
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すべて 国際共同研究 (3件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件) 学会発表 (10件)
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