研究課題/領域番号 |
19H01854
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
福原 武 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, ユニットリーダー (30742431)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 光格子 / 量子気体顕微鏡 / 機械学習 / ラマンサイドバンド冷却 |
研究実績の概要 |
量子気体顕微鏡の開発に向け、単一原子観測の実現と最適化、量子気体生成のための新たな光トラップの開発、光格子の光強度安定化の構築に取り組んだ。 カゴメ格子の基本的な構造となる三角格子において、極低温原子気体を単一格子・単一原子レベルで測定することに世界で初めて成功し、その結果を論文発表した。更にその後も単一原子観測において中核をなすラマンサイドバンド冷却の最適化を行った。ベイズ最適化法を用いた自動パラメータ探索を行い、最適化スコアの高いデータに関して各パラメータの分布を表示することにより、個々のパラメータの重要度やパラメータに関する実験不備などをあぶりだすことができた。 空間高分解能な顕微鏡対物レンズを組み込んだ影響で、温度の十分に低い原子を用意できていないという問題が生じている。その対処として、顕微鏡の対物レンズの側からビーム径を絞ったトラップ光を入れることで、原子密度を増加させ、蒸発冷却の効率をあげるという方法を検討している。ただし、原子密度を上げすぎると3体衝突により原子ロスや加熱が生じるため、蒸発冷却のそれぞれの段階に応じて密度をうまく調整する機構が重要となる。これに向け、電流によりダイナミカルに焦点距離を変化させることができるレンズを用いた光学系を設計・評価した。 光格子の深さはその光の強度に比例するので、再現性の良い結果を得るためには光の強度安定化が必要となる。単一原子観測を行う際には光散乱による加熱の影響を抑え、原子をそれぞれの格子に留めなければならず、深い光格子が必要となる。これは測定したい物理を行う光格子の深さよりも3桁程度大きく、両者をカバーできる強度安定化システムが必要となる。これに対しログスケールの光強度検出器と指数増幅器を組み合わせることで4桁にわたって線形性を保つ安定化ができるようになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
パワー低下のため光格子を形成するための高出力レーザー2台を修理に出す必要があり、その間光格子を用いた研究が行えず、また修理後もビームなどを調整するため時間を消費した。また、新型コロナ感染症対策のため実験室での作業ができない期間も生じた。 一方で、ベイズ最適化を用いた自動パラメータ探索により実験パラメータの重要度や相関を知ることができるとわかったことは大きな収穫であった。これを活用することで遅れを取り戻していけるのではと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は、量子気体顕微鏡がスピンフラストレーション系の研究に有用であることを示していく。まず、昨年度開発してきたビーム径可変の光トラップを用いることで蒸発冷却の効率を高め、超低温の量子気体を準備する。 スピンフラストレーションの肝となる反強磁性相互作用に関しては、ルビジウム-85原子のフェッシュバッハ共鳴(155ガウス程度に存在する)を用いて実現する。ルビジウム-85原子は、現在用いているルビジウム-87原子に比べると冷却効率が悪いことが知られているが、ビーム径の最適化によってその課題を克服する。昨年度ラマンサイドバンド冷却の最適化において成果を上げたベイズ最適化を使用することにより、短期間で最適な冷却パラメータを探し出せると考えている。 三角光格子は独立した光ファイバーを通過した3本の光を干渉させることで形成されている。ファイバー通過の際に生じる光の位相のずれにより、干渉パターンの位置、すなわち光格子ポテンシャルの極小点の位置にわずかであるが変化が生じる。これは、カゴメ格子生成のために別のレーザー光を重ねる時や、特定の格子点の原子にアクセスする際に問題となる。この問題に対処するためにファイバーで生じる位相ノイズをキャンセルする機構を構築している。現在のところ、位相ノイズのキャンセル機構を動作させると原子気体を加熱してしまうという課題が見つかっている。この主な原因は光格子の深さによって安定化のための光信号強度が大きく変わってしまうことにある。これは、安定化に用いる光の量を一定にする強度安定化の機構を追加で入れることによって解決できると考えている。
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