量子気体顕微鏡を用いたフラストレートスピン系の研究を行うため、冷却などの最適化による量子気体生成と光格子の位相変調による反強磁性結合実装に取り組んだ。 カゴメ格子の基本的な構造となる三角格子において、極低温原子気体を単一格子・単一原子レベルで測定することに世界で初めて成功したが、空間高分解能な顕微鏡対物レンズを組み込んだ影響で、量子気体を生成できないという課題が生じていた。レーザー冷却、光トラップによる原子の輸送や蒸発冷却など実験シークエンスの各々のプロセスを一から見直し、改善を施すことでこの課題に対処した。特に、蒸発冷却においてはその初期段階に用意できる原子数が少なく、原子間衝突による熱平衡化がなされていないために冷却効率が悪くなっている点に着目し、既存の光トラップのビーム径を小さくしたり、顕微鏡の対物レンズの側からビーム径を絞ったトラップ光を新たに追加したりすることで十分な原子密度を達成し対処した。これらにより、数千個と少数ながら安定した原子数のボース・アインシュタイン凝縮体を生成することに成功した。 トラップ中での飛行時間測定法を行うことで、量子気体顕微鏡を用いた運動量分布の測定が可能であることを実証した。これにより、光格子中の超流動状態を特徴づける原子波干渉パターン(密度分布のピーク)を測定することに成功した。少数個原子のサンプルに対しても使用可能な点がこの測定の強みである。 反強磁性結合の実現に向けて、光格子の位相を変調するというフロケ制御を施すことで、格子間トンネリングの符号を変えるという手法を実装した。具体的には、三角光格子を形成する3本のレーザー光の間の周波数差を制御できるシステムを開発した。これにより、フラストレートした量子スピン系を研究することが可能となった。
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