研究課題/領域番号 |
19H01856
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中島 多朗 東京大学, 物性研究所, 准教授 (30579785)
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研究分担者 |
遠藤 仁 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (40447313)
大石 一城 一般財団法人総合科学研究機構(総合科学研究センター(総合科学研究室)及び中性子科学センター(研究開発, 中性子科学センター, 副主任研究員 (60414611)
小田 達郎 京都大学, 複合原子力科学研究所, 助教 (70782308)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 磁性 / 中性子小角散乱 / 中性子スピンエコー分光 / 磁気スキルミオン |
研究実績の概要 |
本課題の目的はJ-PARC物質生命科学実験施設(MLF) BL06(VIN ROSE)における低温・磁場中での中性子共鳴スピンエコー実験環境を構築し、またBL15(TAIKAN)で散乱中性子のスピン偏極解析を実現することで、磁気スキルミオンに代表されるトポロジカル磁気秩序の構造とそのダイナミクスを詳細に明らかにすることである。 初年度はBL06において試料位置に磁場を加えるための電磁石を導入する予定であったが、ビームライン(BL06)の都合上導入が遅れ、2020年度の導入となった。 電磁石の導入を待つ間、BL15から借りた冷凍機を用いて、カイラル磁性体MnSiのゼロ磁場の磁気相転移を中性子共鳴スピンエコー法により測定した。MnSiはゼロ磁場ではTc=29 K程度でスクリュー型のらせん磁気秩序を示す。常磁性相かららせん磁気相への相転移の直前にはリング状の散漫散乱が観測され、これが1 ns程度の緩和時間を持つカイラルスピン揺らぎによるものであることが海外の中性子スピンエコー装置を用いた研究によって報告されていた。今回の実験ではJ-PARC MLFのBL06においてこの結果を再現することを目指した。従来のスピンエコー測定では中性子スピンの歳差運動を使って中性子速度の相対変化を測定する「Mezei型」と呼ばれる方式が用いられるが、VIN ROSEでは同じスピン状態を持つ中性子の波動関数の干渉効果を使って中性子の強度が時間変動する「Modulation of Intensity by Zero Effort(MIEZE)」と呼ばれる方法を用いて中性子の速度変化を測定している。今回の測定では、このMIEZE型スピンエコーを用いてもMnSiのカイラルスピン揺らぎの緩和時間を正確に測定することができ、手法の有効性を確認することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度導入予定だった電磁石(試料位置に磁場をかけるためのもの)については計画よりも遅れているものの、ゼロ磁場において磁性体試料を用いたMIEZE型共鳴スピンエコー実験に成功し、手法自体の検証はできている。MIEZE型スピンエコー法は試料位置における磁場の強さや方向に制限がないことから磁性体の磁場中磁気相転移を研究するのに極めて都合が良い方法である。この手法を実現しているのは、日本のJ-PARC MLF BL06と、ドイツの研究用原子炉FRM-IIに設置されたRESEDA分光器のみである。この手法を実際の磁性体研究に応用して、磁気揺らぎの特徴的な時間スケールを測定することができた意義は大きいと考える。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、まず今年度導入予定だった電磁石の導入を速やかに進め、コミッショニングを行う。また、これと並行して試料位置に大きさ固定の磁場を加えることができる磁気回路(永久磁石)を用いて測定ができる環境を構築し、MnSiの磁場中で現れる磁気スキルミオン相の相転移温度近傍におけるスピンダイナミクスを明らかにすることに取り組む。 また、本研究のもう一つのテーマはJ-PARC MLF BL15(TAIKAN)における偏極中性子小角散乱の高度化である。TAIKANはすでに入射中性子をスピン偏極するための機構を備えているが、磁気散乱シグナルから磁気構造の情報をより多く引き出すためには散乱中性子のスピン状態を解析する装置が必要である。今後は磁気ミラーを用いた偏極解析システムをBL15に導入することでこれを実現することを目指す。
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