研究課題/領域番号 |
19H01857
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
鳥谷部 祥一 東北大学, 工学研究科, 教授 (40453675)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子モーター / DNAナノテクノロジー |
研究実績の概要 |
本年度から,DNAオリガミベースの「やわらかい」人工モーターの実現に向けた研究を開始した.人工分子モーターは,ラチェット型と構造変化型の2つに分類することができる.ラチェット型はメカニズムがシンプルであるが,パフォーマンスは悪い.また,すでにある程度の研究の積み重ねがある.一方,構造変化型は複雑でありこれまでの実現例が存在しないが,大きなパフォーマンスが得られると期待できる.両者には一長一短があり,両方のアプローチで進めるのが良い.本年度は,これら2つのアプローチの両方でDNAオリガミベースの人工分子モーター実現に向けた研究を進めた.ラチェット型に関しては,燃料供給,構造で決まる方向性,スケーラビリティという重要な3つの要素をすべて満たすモーターは実現していない.そこで,従来型のバーントブリッジラチェット型モーターから出発し,これに燃料供給+構造非対称を加えたモデルを構築し,数値計算によりその動作を確認した.その結果,新しい運動メカニズムを提案し,特に,一方向に運動し続ける条件を発見した.現在,論文を執筆中であり,近日中に投稿予定である. また,構造変化型に関しては,まず,脚となるヒンジ型構造を設計し,DNAオリガミで構造を作った.また,分子動力学法に基づいた数値計算で動作を確認した.構造が正しく出来ていることは透過型電子顕微鏡で確認できた.2021年度後半は,燃料の付加によるヒンジの折れ曲がりを確認していた.特に,電顕と電気泳動からは,燃料の結合が不十分であると推測され,現在,設計の見直しを行っている.また,電顕では静的な構造しか観察できないが,色違いの量子ドットを複数結合することで,蛍光顕微鏡で動的な構造変化を観察できる.このための準備として,カルボキシル基付き量子ドットへのDNA修飾ができることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
以下の通り,ラチェット型と構造変化型の両者で成果がでつつあり,計画通りに進んでいると言える. ラチェット型に関しては,物理的に妥当な詳細な数値計算モデルを構築し,回転型のモーターが一方向に回転することを示した.これは新しいコンセプトの提案となっており,スケーラビリティ(脚の数が可変であり,脚を増やすことでトルクなどが増強される性質)と構造非対称で決まる一方向性を備えた初めての人工分子モーターの例となっている.さらに,運動するために必要な条件を詳細に明らかにし,モーターが発揮できるトルクの大きさも見積もった.現在,論文を執筆中であり,近日中に投稿予定である. 構造変化型のモーターに関しては,基本設計を終え,DNAオリガミで形成するためのDNA配列の設計,分子動力学による数値計算での構造安定性の確認を終えた.これをもとに,実際にDNAオリガミで構造を形成し,透過型電子顕微鏡で構造ができていることを確認済みである.燃料結合によるヒンジの折れ曲がりを検証したが,現時点でははっきりと折れ曲がりを示すことができていない.条件を変更して繰り返し実験して調べたところ,DNA配列の設計に不備が見つかった.そこで,配列設計の見直し,現在,新しい配列での実験を実施しようとする段階である. また,電顕では静的な構造しか調べることはできないが,複数の異なる色の量子ドットをプローブとして用い,ヒンジの曲がりを蛍光顕微鏡で観察予定である.そのために,多色の同時観察が可能な蛍光顕微鏡の導入をする予定である.
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究をさらに進めていく.ラチェット型に関しては早期に論文を仕上げ,投稿する.構造変化型については,燃料分子の結合が弱い原因がほぼ特定できたので,早期にDNA配列の設計を見直し,実験を繰り返す.また,量子ドットによる動的な観察は有力な手段と考えられ,できる限り早期の実験系構築を目指す.さらに,統計的な解析のため,蛍光エネルギー共鳴と電気泳動を組み合わせて,ヒンジの曲がりを蛍光強度の変化によって可視化する.燃料結合によるヒンジの曲がりが確認できたら,脚とレールの相互作用を調べる.レールには,2020年度に詳しく調べたDNAナノチューブを利用する.DNAナノチューブ側面に脚との相互作用部位を用意し,足とレールの相互作用を蛍光顕微鏡や電顕で確認する.これができ次第,酵素による燃料分解による構造変化や,足を複数組み合わせたモーター本体の構築を目指し,最終的な目標である,構造変化を伴う人工分子モーターの実現を目指す.ここまで実現できたら,モーター本体の「硬さ」を変化させ,それによってモーターの運動速度や速度ゆらぎがどう変化するかを調べる.マルチカラーの量子ドット観察のために,2色を同時に観察できる蛍光顕微システムを構築する.
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