研究課題/領域番号 |
19H01860
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
笹井 理生 名古屋大学, 工学研究科, 教授 (30178628)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ゲノム立体構造 / シミュレーション / クロマチン |
研究実績の概要 |
これまで国内外で開発された染色体立体構造計算では、生化学的に測定されたHi-Cコンタクトデータを再現するよう、クロマチン間引力モデルを経験的に調整して、拡がった染色体鎖を折りたたむ計算をしていた。こうした計算はタンパク質鎖の折りたたみモデル計算に類似しており、染色体1つの構造を計算することができるが、多数の染色体鎖が集合したゲノムの立体構造を計算しようとすると、クロマチン間引力とクロマチン-核膜間引力の微調整が必要になり、計算の不安定さが問題となっていた。
本研究では、M期染色体を模した凝集した鎖を初期条件として、ヒストン修飾に応じた不均一な斥力によって鎖が膨張し、核膜と核小体が自発的に形成され、G1期の核がつくられる過程をシミュレートすることにより、ゲノムの安定した計算が可能であることを見いだした。 この計算では、ヒトの複数種類の細胞について同じモデルパラメータを用いて、すべての染色体のHi-Cコンタクトマップを定量的に再現できるほか、核膜近接部位、核小体近接部位の分布に関する生化学データを定量的に再現し、顕微鏡観察と整合的な染色体配置、クロマチン構造、核小体分布などが得られた。
また、実験グループと協力してクロマチン運動の統計解析を行い、上記の計算モデルとの比較を開始した。その結果、クロマチン運動に速い運動と遅い運動の不均一さがあり、不均一な運動の分布と細胞機能の間の密接な関係を示すことに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
細胞中のクロマチンの運動を計測する実験グループと連携し、クロマチン運動の統計解析を行って計算シミュレーションの結果と比較し、多くの情報を得ることができた。この結果についてプレスリリースを行い、反響を得ている。
また、当初予期しなかった展開として、本研究ではクロマチン構造と転写活性の相関を調べる数理モデルの解析が進んだ。この解析では、クロマチン構造揺らぎの予想外の特性が示唆され、計算モデルや実験による検証の可能性を広げている。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度に開発した計算モデルをさらに洗練させ、細胞機能研究のプラットフォームとして完成させることを目標とする。このモデルにより、ヒストン修飾、転写活性などに摂動を加えた細胞でのゲノム構造と運動の変化を計算し、1細胞測定を行う実験グループと協力して、ゲノム構造、運動と細胞機能の関係を明らかにし、細胞を制御する新しい技術の基礎をつくる。
また、ニューヨーク州立大学のグループと協力して、クロマチン構造と転写活性の関係を記述する数理モデルを構築し、クロマチン構造揺らぎの統計的性質と細胞機能の関係を解析する。
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