以下では、令和3年度、令和4年度に実施した内容について述べる。 1)ポリピリジン系高分子とナノ粒子OAPSとのナノコンポジット系に対して、誘電緩和測定を行い、slower process(遅い過程)の存在を明らかにすることに成功した。air gap法に加えて、derivative法により、誘電率実部の周波数依存性から、DC成分の影響に関係なく、slower processの存在を明らかにすることが可能となった。さらに、様々な分子量のP2VPを用いた実験を行うことにより、slower processが極めて非自明な分子量依存性を持つことが明らかになった。今のところ、ミクロな機構の説明には至っておらず、今後の喫緊の課題となっている。また、ナノコンポジット系での内部構造の均一性については、SPring-8でのGI-SAXS測定により、実験的に確証された。 2) slower processの起源を明らかにする目的で、ポリアルキルスチレン系での誘電測定により、α過程に加えて、slower processの探索を行った。また、ガラス転移温度以下でのエイジング過程でのダイナミクスを明らかにするために、電気容量測定を通しての体積緩和測定を行った。これらの測定により、ポリメチルスチレンにおいて、ガラス転移温度以上の液体状態でのslower processの緩和時間の温度依存性とガラス状態での体積緩和過程の特徴的時間の温度依存性を比較することにより、いずれのプロセスもアレニウス型の温度依存性で記述され、その活性化エネルギーはほぼ同じであることが明らかとなった。このことは、液体状態とガラス状態に共通の物理的な起源を持つミクロな素過程が存在することを意味し、これまで独立と考えられてきたガラス状態と液体状態の統一的に理解への道を拓くことが期待される。
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