研究課題/領域番号 |
19H01872
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
田口 明 富山大学, 学術研究部理学系, 講師 (40401799)
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研究分担者 |
近江 靖則 岐阜大学, 高等研究院, 准教授 (50313713)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 水素同位体 / 分離 / ゼオライト / 吸着 |
研究実績の概要 |
重水素,トリチウムの分離は,核融合炉燃料サイクルにおける水素同位体の分離,精製の他,廉価な重水素製造などへの展開が期待できる重要かつ付加価値の高いプロセスである。研究代表者はこれまで,Si8O8からなる8員環細孔を有するLTA型やCHA型ゼオライトに着目し,その水素同位体(D2,H2)の吸脱着特性の検討とD2/H2分離係数の評価を行った。 単成分H2,D2ガスを用いた昇温脱離スペクトルの測定の結果,吸着温度77 Kで吸着させたH2はCa-CHA,K-CHA,Na-CHA,LTA(3A)について,それぞれ約93,140,163,および140 K付近から脱着が観察された。また,D2はいずれの試料においても,H2に対しておよそ5~10℃高い温度でD2の脱着が観察された。D2脱着温度の高温側へのシフトはH2-D2混合ガスを用いた脱着実験でも観察された。これらの結果から,D2の拡散速度に対してH2の拡散速度が速いことが示唆される。さらに,Cs-CHAによる昇温脱離スペクトルの測定の結果,約230 K付近において脱離ピークが観察され,Na-CHAと比較して高温領域における同位体分離の発現が期待される。 一方,Ca-CHA,Na-CHAについて77~110 KにおけるH2およびD2の吸着等温線から,H2,D2の吸着エネルギーを算出した。その結果,Ca-CHAのH2,D2吸着エネルギーはそれぞれ7.83,8.05 kJ/mol,Na-CHAはそれぞれ3.65,3.85 kJ/molが得られた。これらの値は化学親和的な吸着エネルギー(~十 kJ/mol)よりもわずかに低く,その寄与は低いと考えられる。 本研究ではCHA型ゼオライト膜の調製を検討している。種結晶法によりCHA膜が得られたが,接着性に課題があり,調製条件の改良と最適化が必要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
単成分H2,D2ガスを用いた昇温脱離スペクトルの測定を行い,Ca-CHA,K-CHA,Na-CHA,LTA(3A)について,それぞれ約93,140,163,および140 K付近から脱着が観察された,さらに,いずれの試料においても,H2に対しておよそ5~10℃高い温度でD2の脱着が観察された。また,H2-D2混合ガスを用いたNa-CHA,K-CHA,Ca-CHAおよびLTA(3A)のD2/H2分離係数の評価を行った。その結果,吸着温度201 KにおけるD2/H2分離係数はCa-CHA,K-CHA,Na-CHA,LTA(3A)について,それぞれ1.04,1.08,1.10,および1.06が得られ,Na-CHAの分離係数が最も高い値であった。さらに,吸着温度250 Kでは,それぞれ1.03,1.01,0.97,および0.97が得られ,吸着温度が高くなると,Na-CHAと比較してCa-CHAの分離係数が高い値が得られている。また,Csイオン交換したCHA型ゼオライトの昇温脱離実験から,D2の脱離ピークが約230 Kにあることを見いだした。この結果はNa-CHAよりも高い温度におけるD2/H2分離が期待できる。 さらに,各試料についてH2およびD2吸着エネルギーを測定した。その結果,ゼオライト試料は数kJ/molであることを見いだした。この値は化学親和的な水素同位体分離(10 kJ/mol以上)よりも小さい。上述したD2脱着温度がH2脱着温度よりも高いことを考慮すると,速度的な同位体分離が発現していることが示唆される。 一方,ゼオライト膜の調製を検討した。種結晶法によりCHA膜が得られたが,接着性に課題があり,調製条件の改良と最適化が必要と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は水素同位体の分離温度の精密化とCHA型ゼオライトの膜化を検討する。 これまでの検討において,水素同位体の脱着温度,すなわち同位体分離温度が対カチオンの種類によって変化することが明らかとなっている。令和4年度は水素同位体の吸着温度に着目し,同位体分離温度の評価を試みる。すなわち,昇温吸着測定を検討し,水素同位体の吸着温度を明らかにし,同位体分離温度の精密化を図る。 また,引き続き,CHA型ゼオライト膜の合成を試みる。種結晶法による膜合成を試みたものの,接着性に課題がある。今後は構造転換法を利用した,一段階膜化を検討する。
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