重水素,トリチウムの分離は,核融合炉燃料サイクルにおける水素同位体の分離,精製の他,廉価な重水素製造などへの展開が期待できる重要かつ付加価値の高いプロセスである。研究代表者はこれまで,Si8O8からなる8員環細孔を有するLTA型(0.41×0.41 nm),CHA型(0.38×0.38 nm),RHO型(0.36×0.36nm)などのゼオライトに着目し,昇温脱着測定から水素同位体の分離能の評価を行った。その結果,CHA型ゼオライトが201 K付近でD2/H2分離能を有することを見出した。 令和4年度は定容積装置を用い,圧力変化から昇温吸着測定を行った。加熱脱水を行った試料を77 Kに冷却し,定容積部に所定圧のH2,D2単成分ガスを調製した。続いて,単成分ガスを試料管に導入し,約0.3 K/minの昇温速度で約273 Kまで昇温しながら系内の圧力変化を測定した。温度上昇と共に系内の圧力は,徐々に増加する。しかしながら,K-CHA,Na-CHA,Ca-CHAでは約200 Kに圧力減少が観察された。比較として使用したLTA(4A),アクティブカーボン,Ni-MOF-74にはこのような圧力減少は観察されなかった。このことから,CHA型ゼオライトで観察された圧力減少は,水素同位体の吸着現象によるものと結論した。また,D2の吸着ピーク温度はK-CHA(182 K),Ca-CHA(196),Na-CHA(196)で観察され,対カチオンの影響が示唆された。なお,H2の吸着ピーク温度はD2より3~10 K高温であった。このことから,CHA型の高温域(200 K付近)水素同位体分離能の発現は,特異的な水素吸着能に起因することが示唆された。
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