研究課題/領域番号 |
19H01885
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
伊藤 剛仁 東京大学, 大学院新領域創成科学研究科, 准教授 (70452472)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラズマ誘起ミクロ液相反応 / インクジェット / プリンティング / フレキシブルデバイス / 大気圧非平衡プラズマ |
研究実績の概要 |
本研究は、液相が絡むプラズマ材料科学における学術基盤の構築を目的とするものであり、フレキシブルデバイス用プロセスとしてのプラズマ援用インクジェットプリンティングの進化に取り組み、優れた配線描画プロセスや、各種センサ開発に取り組むものである。具体的には、雰囲気ガスの制御とともにプラズマ誘起液相反応場の詳細な理解をもたらすとともに、より制御性の高いプリンティング法の確立をもたらし、更には計算科学も交え、反応メカニズムの解明にもせまる計画である。 これまで大気開放雰囲気で行ってきたプラズマ援用インクジェットプリンティングを、容器内の制御された環境下で行えるようにし、Heナノ秒パルスバリア放電中における液滴挙動の高速観察を行えるシステムを構築した。液滴がプラズマ内部を通過する様子を高い再現性とともに観察するとともに、液滴が存在する状態でのプラズマ生成過程の観察を可能とした。また、液柱を対象としたもので未だ改良の余地があるものの、ナノ秒パルスレーザーを用いた溶液のラマン分光スペクトルの取得にも成功している。今後、プラズマ源の改良とともに、時空間分解計測を行うための基盤を構築できた。 プロセス応用に関しては、四塩化金酸水溶液を用いた金の描画プロセスを中心に取り組んだ。プラズマ投入電力に応じ、基板親水性と凝固速度が変化することで、描画配線幅が変化した。配線幅は、未だ改善の余地が残されているものの、約150マイクロメートルとなり、先行研究における銀配線の値と比較すると格段に改善することができた。プラズマ導入電力の増加に伴い、配線内の金イオンの価数が下がり、最終的には金の描画が実現できていることも、X線回折やラマン分光測定によって確認した。これにより、プラズマ支援の焼結、重合に続き、プラズマ還元のインクジェットプロセスとの重畳が実現できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定の雰囲気ガスを制御した系における観察を可能とするとともに、プロセスの面でも一定の成果を挙げることができ、研究は順調に進展しているといえる。一方、期待していたような診断計測の実現には至っておらず、プラズマ源を中心に、未だ改良を進めていく必要性を感じている。以上の様に、おおむね順調に進展していると評価する。
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今後の研究の推進方策 |
時空間再現性の高い診断計測を実現するための基盤ができたものの、ナノ秒パルス放電プラズマでは、現在用いている比較的大きなミクロ液相に対し、飛翔中に与える影響は限定的となっている。そのため、まずはプラズマ源の改良に取り組み、各種反応速度を高め、反応の進行を観測しやすい系の構築に努める。それらに対し発光分光計測、吸収分光計測、振動分光計測などの各種分光計測を行い、プラズマーミクロ液相相互作用に関する学術基盤の構築に貢献する。 また、液相回りおよびミクロ液相内部での反応シミュレーションにも着手し、液相周囲のラジカル密度分布や、液相に照射する粒子のエネルギー分布などを明らかにしていく。それらと各種分光計測結果の両者を用いることにより、価値の高い知見をもたらす。 プロセス開発においては、プラズマ援用インクジェットプリンティングによる低温かつ高速プロセスを実現していく。この際、プロセスの理解を通じた制御性の向上により、基板損傷の低減も実現していく。有機・無機複合材料の描画プロセスにも着手し、また、配線やセンサーとしての特性評価にも取り組むことにより、各種フレキシブルデバイス実現のためのプロセス開発・評価を行っていく。 以上を通じ、次世代のプリンティング手法の一つとしてのプラズマ援用インクジェットプリンティングの確立に結び付ける。更に、ミクロ液相のみならず、プラズマ誘起液相反応全般に有用な学術基盤の構築に貢献する。
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