研究課題/領域番号 |
19H01887
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
渡辺 隆行 九州大学, 工学研究院, 教授 (40191770)
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研究分担者 |
田中 学 九州大学, 工学研究院, 助教 (10707152)
茂田 正哉 大阪大学, 接合科学研究所, 准教授 (30431521)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 熱プラズマ / 水プラズマ / 有機物分解 / 可視化 / プラズマ温度 / アーク変動 |
研究実績の概要 |
水プラズマシステムでは変動現象を十分に把握し制御することが分解効率の向上につながる。しかし,本システムは新規なプラズマ発生手法であるため,アーク変動の観察は十分に行われていない。そこで本研究では,ミスト供給型水プラズマシステムの廃棄物処理への実現を目的とし,アークの変動現象を明らかにするため,高速度カメラ2台とオシロスコープを用いた同期計測をおこなった。 本実験で使用した実験装置は,トーチ底部に設置した4つの超音波振動子により溶液をミスト化し,直接放電領域に導入した。圧力は大気圧とし,プラズマ源は有機廃棄物のモデル物質としてエタノール水溶液5mol%を選定した。操作条件としては,アーク電流値を6.0 A,7.5 A,9.5 Aの3条件とした。ミスト量調節型水プラズマトーチを用いて,カメラ2台とオシロスコープを同期させ,電流値に影響するアーク変動を観察した。その結果,既往の研究で用いられていたミスト供給型トーチと同じ傾向を示すことがわかった。 医薬品やパーソナルケア製品(PPCPs)は,水系や人間の健康への潜在的な脅威として,大きな関心を集めている。PPCPの一種であるDEET(N,N-ジエチル-m-トルアミド)は,ローション,クリーム,ジェルなどの様々な剤型で虫除け剤として広く使用されている。DEETは人間が直接摂取したり,排泄物や入浴によって排出されたりすることで,水系に広く存在している。特にDEETはヒトの鼻粘膜細胞に対して潜在的な発がん性リスクがあることが証明されている。そのため,DEETの効果的な処理が必要であることから,ミスト生成システムを備えた直流水プラズマを用いて、DEET溶液を分解し,分解率を含めた排水中の生成物の定性・定量分析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,水プラズマのアーク変動解析とその制御,高速度カメラを用いた水プラズマの温度計測をおこなった。高速度カメラとオシロスコープを用いた同期観察により,水プラズマについてアークの空間特性および時間特性を明らかにすることができた。 吸湿材を用いた水プラズマとミスト供給型水プラズマにおいては,同電流値での原料供給量と変動周波数について比較を行い,その装置特性を明らかにした。その結果,原料供給量を制御することが可能なミスト供給型水プラズマは吸湿材を用いた水プラズマよりもアークの安定性を向上させることができると示唆された。ミスト供給型水プラズマにおいては,原料供給量を変化させた場合のアーク変動観察に成功した。 水プラズマシステムによるDEETの分解を行い,通常bの方法では分解が困難な処理物質も分解が可能であることが示された。アーク電流の増加に伴い,高酸化環境により廃液中のTOCが減少することがわかった。DEETの分解ガスにはH2,CO,CO2,N2が含まれ,ミストを発生させるプラズマトーチは,有害廃棄物分解用の熱プラズマ発生装置として有望であることが示された。
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今後の研究の推進方策 |
ミスト量調節型水プラズマにおいては,原料供給量を調節することができるので,原料供給量の制御によって期待される分解反応を選択できる可能性があり,今後解明していく必要がある。今後は特に窒素を含んだ有機系廃棄物処理に関する実験を行う予定である。含窒素有機化合物のモデルとしてはN, N-ジメチルホルムアミド(DMF)などを候補とする。DMFは有機溶媒や無機溶媒への溶解性が高いため,有機物やポリマーの製造工程で広く使用されている代表的な有害成分である。DMFは環境中に長期間残留するため,潜在的な毒性の影響をもたらすことになる。DMFはヒトに対して強い毒性があり,肝毒性や発がん性を誘発すると報告されていることから,水プラズマによる新たな分解システム開発は重要であると考えられる。
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