研究課題/領域番号 |
19H01888
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
白藤 立 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (10235757)
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研究分担者 |
呉 準席 大阪市立大学, 大学院工学研究科, 教授 (90533779)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | プラズマ / 液体 / 界面 / 材料プロセス / 薄膜 |
研究実績の概要 |
初年度の研究では,単独のEDOTモノマー溶液へのプラズマ処理によって,黄色透明なモノマーが褐色の溶液に変化することを明らかにした.しかし,固体を合成することはできなかった.次年度以降の研究では,EDOT溶液にポリスチレンを添加することによって,プラズマ処理後の物質が固体化することを明らかにした.ただし,導電性薄膜を得ようとする際に,絶縁性のポリスチレンを添加するのは得策ではない.本年度の研究では,導電性の付与が期待されるポリスチレンスルホン酸(PSS)の添加を試みた.なお,PSSは水溶液でしか入手できず,油に相当するEDOTとは混ざらない.そこで,界面活性剤であるSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)の添加と,超音波ホモジナイザーによる乳化を行った後に,ArまたはHeガスを用いた大気圧での気液界面プラズマ処理を行った.放電ガス種依存性の調査により,PSSの添加量の大小によらず,Arガスよりも,Heガスを用いた方が固体物質の合成が顕著に生じることを明らかにした.PSS添加量依存性の調査により,PSS添加量が多いほど,赤外吸収スペクトルのピーク形状がブロードになり,重合の度合が増加することを明らかにした.得られた固体物質の導電率を計測したところ,PSS添加率とともに導電率が増加し,最も高いもので数 mS/cmとなることを明らかにした.これは有機EL用の導電膜に使われているものに相当する導電率である.次に,PSS水溶液添加時に同時に変化していた水の添加率の影響を調べるために,PSS合成用のモノマーであるスチレンスルホン酸ナトリウム(SSNa)と水の添加を試みた.この場合にも,混合液が均質に混ざるようにSDSを添加し,超音波ホモジナイザーによる乳化後にプラズマ処理を行った.水の添加率依存性の調査により,水添加率が少ないほど固形物の形成が顕著になることを明らかにした.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,プラズマと液体の界面反応場を用いることにより,導電性ポリマーであるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)に類似した薄膜を,液面上にフリースタンディングで形成する試みを行ってきた.初年度の研究では,モノマー原料であるEDOT(エチレンジオキシチオフェン)溶液の液面上でプラズマを生成しただけでは,EDOT溶液がPEDOTに類似した褐色を呈する液体に変化するが,液面上に薄膜が形成されなかった.しかし,その後の研究により,ポリスチレン添加によって固体合成が可能であることを明らかにした.ただし,その時点では,合成物質の導電性評価や導電性向上には至っていなかった.本年度の研究により,ポリスチレンスルホン酸を添加によって固体合成が可能であること,ならびに,合成物質が導電性を持つことを確認できたことは,大きな前進であると考えている.得られた最高導電率は,スーパーキャパシタなどに用いられる数百S/cmには及ばない値であった.しかし,有機EL用の導電膜に使われる数mS/cmの値にはなっており,将来的に均質なフリースタンディングな薄膜状で得ることが可能になれば,利用価値の高い薄膜合成手法のひとつになると考えられる.現時点において,ワンポットのプラズマ処理によって,液体原料からダイレクトに導電性を有する固体物質を得るための手法の基盤はほぼ確立したと考えられ,概ね順調に研究が進行していると考えている.また,気液界面プラズマを用いることによる重合以外の効能として,当初の計画にはなかったが,液中分子の低分子量化も可能であることがわかった.この結果から,本研究の対象である気液界面プラズマが,無機物の合成だけではなく,機能性の食材を製造するプロセスにも応用できることが判明し,当初想定していなかった有益な成果も得られたと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究により,PEDOT:PSSの合成に利用されているPSS(ポリスチレンスルホン酸)水溶液を添加したEDOT溶液を超音波ホモジナイザー処理した後に,プラズマ処理を行うことにより,固形物の合成に成功した.合成物はPEDOT:PSSと同様な黒色をしており,赤外吸収スペクトルにはEDOTの重合を示唆する傾向が表れていた.ただし,液面上に浮遊した明確な薄膜の状態で固形物を得ることはできなかった.一方,粘性の強いゼラチン水溶液の場合には,薄膜が形成されることが本研究の初期段階において判明している.このことは,液面上での薄膜形成が,液面から液体深部への物質輸送の抑制によって実現されていることを示唆している.そこで,本年度の研究では,液相での物質輸送を抑制する手段の第1の手段として,合成される物質が低導電性になる可能性はあるが,薄膜形成が期待されるゼラチン添加系の原料に対するプラズマ処理を試みる.第2の手段として,液相を低温化することによる物質輸送の抑制を試みる.この方式は,導電率を低下させる要因となるゼラチンなどの添加物が不要という特徴を有する.なお,気液界面プラズマの用途として,薄膜形成以外にも,高分子量物質の高速低分子量化なども可能であることがわかってきた.本年度は,最終年度であるため,当初の目標であった薄膜形成にとらわれず,上記の高分子量物質の低分子量化を含む,気液界面プラズマを用いた新たなプロセスの可能性についても試行する.
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