研究課題
強い力の特徴であるクォーク・グルーオン→核子→原子核という階層構造を統一的に扱い、第一原理計算が可能な格子QCD計算から、軽いハドロンの性質を定量的かつ総合的に理解することを目指した研究を行った。その一つが素粒子標準模型を超える物理の探索に関係するK中間子セミレプトニック崩壊形状因子の計算である。現在、キャビボ-小林-益川クォーク混合行列要素の一つであるVusには、標準模型からの予言値と実験値にズレが示唆されており、このズレの検証が急がれている。本課題では、実験値を決定するために必要なK中間子セミレプトニック崩壊形状因子を、一辺が10fmを超える大体積かつ現実的クォーク質量で生成されたゲージ配位(PACS10配位)を用いて計算し、0.6%誤差でVusを決定した。また、核子形状因子についてもPACS10配位を用いて計算を実行し、有限体積効果を排除した現実的クォーク質量での計算でも、核子荷電半径には15%程度の系統誤差が含まれること、及び特定の形状因子には励起状態からの汚染が100%以上含まれることを示した。それ以外にも、ハドロン2体散乱に関係する散乱位相差の新しい計算方法の開発を行った。この方法を用いることで、実験で計測される質量殻上散乱振幅だけでなく、理論的に定義可能な半質量殻外散乱振幅を計算することができる。実際にこの方法をパイ中間子2体散乱系に適用し、格子QCD計算により半質量殻外散乱振幅の計算に成功した。これらの研究成果をまとめた論文は、学術雑誌Physical Review Dや国際会議報告に掲載された。
2: おおむね順調に進展している
格子QCDシミュレーションの主要系統誤差である、非物理的クォーク質量、有限体積、有限格子間隔から来る系統誤差を取り除いた計算を行うことが、本課題の目標の一つである。この目標のために生成された、大体積かつ現実的クォーク質量上でPACS10ゲージ配位の一部を用いて、上述の研究成果を得られた。また、現在では、それらの発展的研究である、格子間隔を小さくしたゲージ配位を用いた研究をすでに開始しているため。
上述の研究成果を得た計算よりも格子間隔を小さくしたゲージ配位を用いて、K中間子セミレプトニック崩壊、及び、核子形状因子の研究を行う。K中間子セミレプトニック崩壊については、誤差の大部分が有限格子間隔に起因するものだったので、この計算により格子間隔依存性を調べることで、不定性を格段に小さくできる可能性がある。核子形状因子については、核子荷電半径の大きな系統誤差の原因を探るため、格子間隔を変えた計算により、結果がどの程度変化するかに注目した研究を行う。それ以外にも、核子荷電半径を計算する新しい方法の開発や、軽中間子電磁的形状因子計算、ハドロン2体散乱の発展的研究、原子核内部構造研究の基礎となる軽原子核束縛エネルギー計算を行う予定である。
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Proceedings of Science
巻: LATTICE2019 ページ: 1~7
10.22323/1.363.0032
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Physical Review D
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10.1103/PhysRevD.100.094502