研究課題/領域番号 |
19H01896
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
疋田 泰章 京都大学, 基礎物理学研究所, 特定准教授 (80567462)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 超弦理論 / ゲージ/重力対応 / 高階スピン重力 / 共形場理論 / ドジッター時空 |
研究実績の概要 |
超弦理論は量子重力を記述する理論の有力候補である。高エネルギー極限で現れる高階スピン対称性を利用することで、超弦理論や量子重力の解析手法を開発するのが、本研究の目的である。特に、扱いにくい量子重力をより定義された共形場理論で記述可能とするゲージ重力対応を利用する。本年度は、高階スピン重力に対応する高階スピン対称性をもつ共形場理論の解析と、高階スピン重力によるゲージ重力対応の宇宙的(ドジッター)背景への拡張を行った。 (1) 近年Gaiottoらにより、超弦理論のブレーン配位を利用することで、新たな高階スピン代数やその間の双対性が導かれた。我々は、長年開発してきた共形場理論の新解析手法をさらに発展させ、これらの双対性を共形場理論の言葉で導出することに成功した。特に主要な結果として、高階スピン代数の基本的な性質にも関わらず、長年推測のままであった、戸田理論とコセット模型の等価性の証明に成功した。 (2) 宇宙初期はドジッター時空で近似することができる。そのため、ドジッター時空における量子重力を理解することは重要である。ゲージ重力対応はこの場合にも重要な役割を果たすと期待できる。ただし、反ドジッター時空の場合と比較すると、あまり理解は進んでいない。その原因の一つに、具体的な例が非常に少ないことがある。我々は、ドジッター背景上の3次元高階スピン重力を用い、新たなゲージ重力対応の提唱を行った。非自明な証拠として、分配関数の一致を示した。また、反ドジッター背景上の高階スピン重力によるゲージ重力対応との関係から、さらなる証拠をあげた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、高エネルギー極限で現れる高階スピン対称性を利用し、超弦理論の解析を行うことにある。特に、ゲージ重力対応を応用し、高階スピン対称性をもつ共形場理論による記述を用いる。これまでの研究で、2次元共形場理論の理解に飛躍的な進展があった。そのため、当初の計画以上に進展していると言える。さらに、3次元ドジッター背景におけるゲージ重力対応の提案も行った。この研究は、宇宙論的背景上の量子重力の理解に大きな役割を果たすと考えている。 (1) 2007年に我々は、3次元反ドジッター背景上の超弦理論を動径方向の理論(Liouville理論)に帰着させる手法を開発した。その後、この研究を拡張することで、共形場理論の新解析手法の開発に取り組んできた。ところが、なかなか本質的な拡張には成功しなかった。近年、共著者の一人が、高階スピン代数の自由場表示に関して、統一的な理解をもたらすことに成功した。その発展を利用することで、我々の新解析手法の本質的な拡張に成功した。 (2) 近年Gaiottoらにより、超弦理論のブレーン配位を利用することで、新たな高階スピン代数やその間の双対性が導かれた。我々は、新解析手法の発展を利用することで、これらの双対性を共形場理論の言葉で導出することに成功した。特に主要な成果として、高階スピン代数の基本的な性質であり、かつ長年推測のままであった、戸田理論とコセット模型の等価性の証明に成功した。 (3) 宇宙初期や現在の宇宙はドジッター背景で近似できる。そのため、ドジッター背景におけるゲージ重力対応を利用することで、宇宙初期における量子重力の理解が期待できる。我々は、3次元ドジッター背景における高階スピン重力を用いたゲージ重力対応を提唱した。分配関数の比較や知られているゲージ重力対応との関係などから、非自明な証拠をあげた。
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今後の研究の推進方策 |
次年度が研究期間の最終年度にあたるため、本研究課題の総括的な研究を行う。これまで、2次元共形場理論に関して大きな進展があった。これらの成果を利用した研究を行う。ゲージ重力対応を利用することで、高階スピン重力の性質を共形場理論により読み取る。特に、宇宙初期やブラックホールなど、現実に近い問題へと応用する。 (1) 共形場理論の基礎的研究を引き続き行う。Gaiottoらにより構成されたブレーン配位を基本要素と見なし、それを組み合わせてより複雑な高階スピン代数やその双対性を導出する。開発してきた共形場理論の新解析手法を応用し、これらの拡張された場合の理解を行う。新解析手法の開発も同時に行う。その理解を、ゲージ重力対応やAGT関係式(高次元超対称ゲージ理論との関係式)へと応用する。 (2) ドジッター背景における高階スピン重力を用いたゲージ重力対応の理解を行う。ドジッター時空の無限の未来における相関関数を、双対な共形場理論から計算する手法を確立する。特に、重力定数の高次まで取扱可能にする。ドジッター時空にブラックホールを導入し、その特徴を共形場理論から読み取る。4次元の場合へ拡張し、宇宙背景放射のゆらぎの相関から、初期宇宙で存在した粒子を予言可能にする。 (3) 高階スピン重力は超弦理論の特徴を掴んでいるが、その大きなゲージ対称性のため、ホライズンなど一般相対論による幾何の特徴づけができない。3次元高階スピン重力において、ゲージ不変な物体であるWilsonラインを利用し、弦特有な幾何を読み取る。高階スピン重力では、ブラックホール特異点は解消していると思われている。高階スピンゲージ対称性を破った時に、特異点がどうなるか検証する。Wilsonラインにより幾何を調べ、超弦理論の言葉に翻訳することで行う。
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