研究実績の概要 |
我々は2004年に、原子核の内部に潜む核子に働く強い力の基礎理論である量子色力学(QCD)を弦理論の枠内で実現し、ホログラフィック双対と呼ばれる、曲がった高次元時空における弦理論によって記述する「ホログラフィックQCD」と呼ばれる理論を提唱した。この理論はQCDに対する伝統的な解析法とは全く異なる解析法を与え、QCDの様々な性質を理論的に理解する上で大変有用であることが分かっている。特にハドロンの励起状態は格子QCD等による解析が容易ではないが、ホログラフィックQCDを用いると、実験で観測されているメソンのレッジェ軌跡が再現され、その原理を弦の回転や振動によって容易に説明することが可能になる。2019年度は、このホログラフィックQCDを用いて、バリオンの励起状態のスペクトルを調べる研究を行った。ホログラフィックQCDにおいて、バリオンはDブレインと呼ばれる膜状の物体に弦がくっついた状態として記述される。これまでの研究で、核子はもちろん、一部のバリオンの励起状態の解析も行われてきたが、今回はバリオンを表すDブレインについた弦の振動モードの励起状態を含むような状態を取り扱う方法を初めて開発し、得られるスペクトルを詳しく解析した。その結果、アイソスピンが 1/2 でスピンが 3/2, 5/2, 7/2 であるような状態など、これまでの解析では得られなかった多数の新しい励起状態を見出した。これらの予言と実験で確認されている核子の励起状態とを比較すると、質量、スピン、パリティの分布の定性的な振る舞いが非自明に一致しており、実験で見つかっている多くの状態に対して理論的な解釈を与えることができた。この研究成果については論文として発表し、PTEP 誌に掲載されている。
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