研究課題/領域番号 |
19H01902
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
石川 貴嗣 東北大学, 電子光理学研究センター, 助教 (40400220)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ダイバリオン / ハドロン分光 |
研究実績の概要 |
6 つのクォークからなるエキゾティックな粒子「ダイバリオン」は、 半世紀も前に予言されたにも関わらず、これまでその存在が確認されてこなかった。しかし 2009 年のスウェーデン CELSIUS/WASA 共同実験者が陽子・中性子衝突反応でダイバリオン d*(2380) を発見したのに引き続き、我々は重陽子標的に対して終状態が 2 つの中性πメソンと重陽子になる光生成反応 (γd→π0π0d) で、ダイバリオンを新たに 3 つ発見することに成功した。 本研究の目的は、これらの新たに発見したダイバリオンの性質を詳細に調べ、存在するダイバリオンの系統性から、強い力で相互作用するクォーク・グルーオンの複合粒子「ハドロン」がどのように構成されるかを解明することにある。ダイバリオンの生成断面積は小さいためバックグラウンドに対して有意に観測することは非常に難しいが、重陽子標的に対して 2 つの中性メソンと重陽子を終状態とする光生成反応はバックグラウンドを抑制するのに最適である。そこでγd→π0π0d反応およびγd→π0ηd反応でダイバリオンの光生成を確認する。 2020 年度もまたデータ収集を継続的に行うことで統計を上げることに成功した。さらにγd→π0ηd反応イベントの解析を終了させた。ηd 系でのアイソスカラーなダイバリオンのピーク、およびγd→π0π0d 反応でも観測されたπ0d系でのアイソベクターなダイバリオンのピークを観測することに成功した。観測されたダイバリオンの質量と幅を決定するとともに、中間状態のスピンパリティを与えた。これらについては、2 つの学術論文 (letter と full paper) を執筆中であり、近日中に投稿予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイバリオン生成のため重陽子標的での終状態が 2 つの中性メソンと重陽子になる光生成反応を重点的に調べる。γd→π0π0d、γd→π0ηd 反応の断面積を測定し、中間状態に現れるダイバリオンの性質を明らかにすることを目指す。これまでの実験データで、既に 3 つのダイバリオンの存在を示すことができたが、ダイバリオンの性質を詳細に研究する上で十分な統計量がない、γd→π0ηd 反応データは閾値近傍のみで終状態の 2 粒子間の相関が十分に調べられない、重陽子の検出と識別の効率が低く断面積の系統誤差が大きい、という問題があった。 まずこれまでの実験データでγd→π0ηd反応イベントの解析を終了させた。ηd 系でのアイソスカラーなダイバリオンのピーク、およびγd→π0π0d 反応でも観測されたπ0d系でのアイソベクターなダイバリオンのピークを観測することに成功した。観測されたダイバリオンの質量と幅を決定するとともに、中間状態のスピンパリティを与えた。これらについては、2 つの学術論文 (letter と full paper) を執筆中であり、近日中に投稿予定である。 また光子ビームを生成する一次電子ビームのエネルギーを 1.2 GeV から 1.3 GeV に上げてデータ収集を継続し、統計量不足の解消と 0.1 GeV 高い入射エネルギー領域のデータを得ることに成功した。新たに取得したデータの解析は進行中である。さらに重陽子の検出と識別の効率を上げるため、前方のプラスチックシンチレータからなるホドスコープを建設した。FOREST 電磁カロリメータへの実装については 2021 年度に行う予定である。 同じデータを解析することで得られた低エネルギーωp散乱パラメータ (散乱長と有効距離) を含めて、これまでの結果を東京工業大学における量子物理学・ナノサイエンス第307回セミナーで解説した。
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今後の研究の推進方策 |
ダイバリオン生成のため重陽子標的での終状態が 2 つの中性メソンと重陽子になる光生成反応を重点的に調べる。2021 年度も一次電子ビームのエネルギーを 1.2 GeV から 1.3 GeV に上げた光子ビームを使って既存のセットアップでγd→π0π0d、γd→π0ηd 反応のデータ収集を継続する。新たに収集したデータ解析を精力的に行うことでデータの統計不足を補う。 さらに重陽子の検出と識別の効率が低いという問題を解決するため、前方のプラスチックシンチレータからなるホドスコープを拡張する。2021 年度には FOREST 電磁カロリメータに実装し、拡張されたほどスコープの元でデータ収集を行う予定である。 2021 年度には、現在、執筆中の 2 本の学術論文に加え、手持ちのデータで可能な限り学術論文の投稿を試みる。
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