研究課題/領域番号 |
19H01914
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
鈴木 大介 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 研究員 (70769504)
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研究分担者 |
久保野 茂 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 客員主管研究員 (20126048)
新倉 潤 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 助教 (50644720)
今井 伸明 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (80373273)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 元素合成 / RIビーム / 核構造 / 高速陽子捕獲反応 / 中性子星 / X線バースト / ガンマ線核分光 / 核子移行反応 |
研究実績の概要 |
本研究では 、低速制御したRIビームを用いた核子移行反応とゲルマニウム半導体検出器を用いた核分光を融合することにより、元素合成と天体現象に関与する高速陽子捕獲過程(rp過程)の反応断面積を決定する。第三年度は(1)rp過程の合成速度を律速する56Niの反応断面積測定にむけて要素技術の開発を継続し(2)78Niのガンマ線核分光実験を実施した。(1)(A)ダイヤモンド半導体検出器の性能評価を放射線医学総合研究所の重イオン加速器施設HIMACにおいて実施した。この検出器はRIビームのエネルギーを制御する際にエネルギーを測定する役割を担う。毎秒100万個の粒子の照射に耐えうることを、実際にビームを照射することで確認した。(B)液体水素標的の開発。エミッタンスの低いRIビームに最適化した口径20 mm、厚さ1.5 mmの液体水素標的セルを開発した。標的セルの開発データと性能評価実験の結果を論文として公表した。(C)超新星爆発時のrpプロセスを律速する56Niの中性子捕獲反応断面積測定実験をRIBFにおいて提案し、採択された。この実験にむけて、反応後の荷電粒子を測定するためのシリコン半導体検出器テレスコープをビームラインに設置した。(2)ゲルマニウム半導体検出器を用いた新世代のRIビーム核分光を推進するために78Niの分光実験をRIBFにおいて実施した。78Niは陽子数28・中性子数50を持つ二重魔法核である。魔法数がもたらす量子的安定性の強弱は、超新星爆発あるいは中性子合体において生起する元素合成過程(r過程)に影響を与える。本実験データにより、78Niの魔法性をより定量的に評価することが可能になる予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画は、現在までおおむね順調に進捗している。(1)要素技術の開発。液体水素標的は終了し、構造と性能評価を論文として公表した。ダイヤモンド検出器は、放射線医学総合研究所の重イオン加速器施設HIMACにおいて、ビームレート耐性をキセノン・ビームにより評価した。予定通り毎秒100万個の粒子の照射に耐えることを実証した。56Niの反応断面積測定実験のためにシリコン半導体検出器テレスコープを開発した。21年1月に実施した重陽子ビームによる性能評価の結果が良好であったため、本測定にむけてRIBFのビームラインにテレスコープを設置した。(2)実験の実施。ゲルマニウム半導体検出器を78Niの分光実験を、予定通り21年4月に実施した。本実験により、RIBFにおける次世代の高分解能ガンマ線核分光が一歩前進した。本研究課題では、物理データの重要性とインパクト、実験の技術的な難しさを総合的に勘案し、当初の予定を変更し、56Niの中性子捕獲反応断面積を評価する実験を行う判断をした。本実験は、22年5月にスケジュールされており、現在実験に向けてビームラインにおける準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、RIBFにおいて低速RIビームを用いた56Niの中性子移行反応実験を実施する。実験では、これまで開発を続けてきたシリコン半導体検出器テレスコープと、ダイヤモンド半導体検出器を投入する。これらの検出器により、大強度ビームによる効率的な測定と、高分解能な反応後の粒子測定を実現するう。本データは、rp過程の元素合成速度を律すると言われる56Niの中性子捕獲断面積を評価するデータの先駆けとなる予定である。実験後には、測定データの解析を進め、中性子捕獲断面積の定量的評価へとつなげてゆく。理論物理学者の協力を得て、中性子捕獲断面積値に基づき、rp過程の元素合成のシミュレーションを行い、鉄より重い元素の生成比を議論する。
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