研究実績の概要 |
2022年度は超新星爆発時の高速陽子捕獲過程(rp過程)を律速する56Niの中性子捕獲断面積を決定するために、中性子移行(d,p)反応の測定を実施した。実験は理研RIビームファクトリー内の減速RIビームラインOEDOにおいて行った。RIビームファクトリーの供給する56NiビームをOEDOにより減速した。本研究課題において開発したダイヤモンド半導体検出器を使用することで、毎秒100万個以上のビーム粒子の飛行時間を計測することに成功した。この成果により、従来のRIビーム実験よりも大強度なビームに対して、信頼性のある粒子識別とエネルギー測定を行うことが可能となった。減速RIビームをOEDOの実験焦点面に設置した重陽子標的に照射して、(d,p)反応を誘導した。シリコン半導体検出器テレスコープにより反跳した陽子を観測し、共鳴状態のエネルギーと微分散乱断面積を導出した。励起した共鳴状態の崩壊モードを決定するために、標的下流の磁気スペクトロメータによって、残留核を識別した。56Niの中性子捕獲断面積は、rp過程による元素合成量に大きく影響するパラメータだと考えられている。特に、この元素合成過程は、Mo/Ruの異常同位体比を説明できる最も有力な仮説であることが知られている。短寿命核である56Niの中性子捕獲断面積は実験データが全く存在しない。本実験データはrp過程による元素合成を解明するうえで非常に画期的な情報である。またrp過程の母体となる超新星爆発の研究への波及効果も期待される。
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