研究課題
本研究では、π中間子およびK中間子などの粒子を含むハドロンビームに対して粒子識別を行う検出器を開発している。J-PARCハドロン実験施設高運動量ビームラインが2020年度に稼働した。現在は加速器から取り出された30GeVの一次陽子をそのまま実験に供しているが、将来的に粒子生成標的を挿入し、高運動領域における二次粒子ビームラインとして利用することが計画されている。ただしこのラインは粒子弁別機能を有さない。二次粒子、特にK中間子を同定することができれば、ストレンジクォークを2つ以上含むバリオンの生成が可能となる。重いクォークを有するバリオンのスペクトルおよび崩壊様式を研究し、バリオン構造の研究を発展させるため、ビーム粒子に対して粒子識別を行うリングイメージ型チェレンコフ検出器を開発する。本年度は基本的な設計を行った。まず、ストレンジクォークを2つと軽いクォークを1つ含むΞ粒子の分光を目的とし、その生成に最適なビーム運動量5GeV/cに対して粒子識別を行う仕様とした。輻射体として屈折率1.01程度のエアロジェルを用いることとし、千葉大学で開発されたものについて試験を実施した。このような屈折率の小さいエアロジェルでは光の透過長が最終的な光量にどれ程影響するかが重要となる。その結果、目的とするチェレンコフ光の角度分解能を達成するにはやや不十分であることが分かった。これをふまえ、屈折率1.02で検出器仕様を最適化することに決定した。また、光検出器としてMPPCを用いることとし、高計数率に対応可能なCITIROCを用いたMPPC読み出しの性能評価を行った。その結果、シンチレーション検出器に対して光量が少ないチェレンコフ検出器では、十分は信号・雑音比が実現されない可能性があることが分かった。これをふまえ、今後は従来EASIROCの改良かMPPC読み出しASICの新規開発などを検討する。
2: おおむね順調に進展している
当初計画では光センサとしてMPPCを用い、データ読み出しにEASIROCを適用する計画であった。採択後、EASIROCでは高計数率耐性が問題となることが判明し、読み出し回路の開発を進めている。専門家に研究協力者として参画して頂き、これまでに基本的な性能評価を進めることができた。今後開発の方向性を決定することができたため、おおむね遅延なく進められると考える。
5GeV/cの運動量に対してπ中間子とK中間子を識別するためのリングイメージチェレンコフ検出器の開発をすることと決定した。基本的な設計が完了したため、今後は実機の設計、リングイメージの選択機構、さらに、光学系の調整機構の開発およびMPPC読み出し回路の開発を実施する。
すべて 2021 2020
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件)
Physical Review Letters
巻: 126 ページ: 1-6
10.1103/PhysRevLett.126.062501
Progress of Theoretical and Experimental Physics
巻: 2020 ページ: 1-34
10.1093/ptep/ptaa139