研究実績の概要 |
本研究はナノ粒子標的による中性子小角散乱によって重力に類似する未知の相互作用を到達距離10~100nmの範囲において探索することを目的としている。中性子は電荷を持たず、電気分極率も極めて小さいため、ファンデルワールス力などの電磁気的な擾乱を受けないという利点がある。また、探索距離と同程度の大きさを持つナノ粒子による干渉性散乱を測定することで、従来の単原子分子標的の場合に比して約106倍の感度向上が得られる。さらに、符号の異なる散乱長を持つ元素の化合物または合金をナノ粒子標的の材料として用いることで、核力による散乱に起因するバックグラウンドを大幅に抑制可能である。 2021年度は天然の物質の中でもっとも干渉性核散乱断面積が小さいバナジウムを原料としたナノ粒子標的の製造に成功した。またそれを用いて大強度陽子加速器施設(J-PARC)のパルス中性子源にて中性子小角散乱測定を行った。暫定的な解析から、到達距離10nm周辺での未知相互作用の強度に対するもっとも厳しい制限値(B. Heacock et al., Science, Vol.373, No.6560 (2021))と同等の感度が得られることがわかった。 さらに、符号の異なる散乱長を持つ元素を組み合わせた標的材料の候補としてバナジウム-ニッケル合金に着目し、“ジェットミル法”と呼ばれる粉砕手法を採用することにより、不純物濃度~10ppm以下の高純度ナノ粒子の製造に成功した。この材料の干渉性散乱長の絶対値は 0.02fm以下であり、現在のところ低速中性子に対してもっとも“透明”なナノ粒子材料である。このナノ粒子標的を用いた中性子小角散乱実験を2022年6月に予定しており、これによって到達距離10nm周辺での未知相互作用に対する探索感度が従来の10倍向上することが期待される。
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