研究課題/領域番号 |
19H01928
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
杉立 徹 広島大学, 学術・社会連携室, 特任教授 (80144806)
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研究分担者 |
中條 達也 筑波大学, 数理物質系, 講師 (70418622)
三好 隆博 広島大学, 先進理工系科学研究科(理), 助教 (60335700)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | クォーク物質 / フォトン物理 / ALICE実験 / クォークグルーオンプラズマ / QGP |
研究実績の概要 |
・LHC加速器ALICE実験に於いて高精度フォトン検出器PHOS及びジェット対検出器DCALを運用し、第2期衝突実験(RUN2=2015-2018年)のデータ収集を完遂した。PHOS及びDCALデータの品質保証及び較正を完了し、2018年収集データに発覚したTPC飛跡検出器イオンフィードバックに起因する飛跡データ歪み補正を待ちながらRUN2データ再構築に向けて努力するも、突如、新型コロナウィルス感染症の世界的流行に見舞われた。CERN研究所封鎖などから同僚研究者との歩調を合わせた協働作業は難しさに直面し、結果、いくつかの解析成果を公表するも、全体的遅延は免れなかった。幾つかの行動計画を順延し、コロナ禍終息を待って復旧に努力する。 ・原子核衝突の極初期状態に発現が予期されるカラーグラス凝縮や早期平衡化機構解明に焦点を絞る超前方検出器FoCalの開発導入を進めた。わが国5機関を含むFoCal企画書(LOI)を2019年に提案後、本年度4月ALICE実験執行部承認、同年6月LHCC実験提案承認など重要なステップを主体的に進めた。私たちが主導する同検出器Pad読出部の耐放射線障害性能を高めるため、p型半導体を採用した検出部を新たに設計・試作し、2021年2月、東北大学電子光理学研究センターにて初めてのビーム照射試験を行った。Pad検出部としての基本的な性能を確認するとともに、いくつかの問題点を発見し改善策を検討した。 ・量子多体系を支配する非線形非平衡物理を理解するなかで普遍的な拡がりもつ学術領域を形成していくことが重要である。本年度、カイラルプラズマ不安定性によるクォーク物質の時空発展を探索する相対論的磁気流体力学シミュレーション解法の基礎的研究に着手し、その一部成果を学術論文として公表し、学際的分野を切り開く一端を担った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
・当該実施計画では新型コロナウィルス感染症の世界的蔓延により致命的な影響を受けた計画と、重大な影響を受けずに実行できた行動もある。従って、特異な状況下で進捗状況を全体的に評価するのは難しい。 ・第2期衝突実験RUN2終了に引き続くLHC加速器保守期間(LS2=2019-2021)、ALICE実験を構成する各検出器の維持・高度化を実行するとともに、RUN2全データ物理解析を徹底的に遂行しようとする行動計画はその最中、世界的な新型コロナウィルス蔓延により大幅な減速を余儀なくされた。物理解析の終盤に達していたトピックスはオンライン会議などでも進捗を遂げるが、解析プロセス初期のトピックスはCERN研究所封鎖や世界的鎖国制限のため組織的連携体制を維持することが難しくもあった。 ・超前方物理を開拓するFoCal検出器開発研究は、わが国5機関を含むオランダ・フランス・デンマーク・ノルウェー・インド・米国他からなる34研究機関が連携協力して推進した。中條(分担)を含めた数名が中核となり、隔週程度のオンライン会議で全体の進捗状況を把握検討しながら、それぞれ地域/機関が分担する担当課題をそれぞれの地域/組織で更に詳細に分析検討しながら開発を進めた。オンライン会議では技術詳細の突っ込んだ議論や実物を手にした意見交換が難しいなどの困難もあるが、2021年2月、中條(分担)が責任著者となり試作1号機の性能評価研究成果を論文公表するなど、コロナ禍の影響を回避しながら、進捗状況は期待通りである。 ・他分野研究者と新たな学術領域開拓を目指した協働研究はコロナ禍の影響を受けることが少なく、三好(分担)はその研究成果をいくつかの研究会で口頭発表するとともに、5月及び8月にその一部成果を学術論文2報に公表し、学際的分野を切り拓く本実施計画に応えた。
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今後の研究の推進方策 |
巨大加速器施設を不可欠とする高エネルギー物理実験分野は極度にグローバル化した分野のひとつである。複数国が国力を挙げて施設建設および維持貢献しないと成り立たない現実がある。結果、世界中の研究者は緊密な連携を保持するひとつの組織を立ち上げ、そこに掲げた目標達成に向けて日々行動する。この有機的協働を成立させる重要な機能のひとつが、いつでもどこでも議論し合える自由であった。今回直面した新型コロナウィルスの世界的蔓延は、突然、この機能を奪った。当初、近代医科学の進歩や最新ゲノム情報の発達などからコロナ禍の終息に長くは掛からないと安易な姿勢で臨んでいたところもあったが、なかなか終息へのシナリオは見えない。本課題のなかでもコロナ禍に耐えることのできた行動計画もあるが、致命的に減速を余儀なくされた計画もある。後者について「不自由さ」を受け入れ、オンライン環境下での議論や検討を加速する。
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