研究課題/領域番号 |
19H01931
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
岡本 崇 北海道大学, 理学研究院, 講師 (50541893)
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研究分担者 |
諸隈 佳菜 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 特別研究員 (70649467)
児玉 忠恭 東北大学, 理学研究科, 教授 (80343101)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 銀河形成 / 超大質量ブラックホール / 銀河中心核 / AGNフィードバック |
研究実績の概要 |
銀河団内に形成される巨大楕円銀河は現在ほとんど星形成活動をしていない.このような大質量銀河の星形成を抑制するには銀河中心に存在する超大質量ブラックホール (SMBH) をエンジンとする活動銀河核からのエネルギー放出 (AGN フィードバック) が必要であると考えられている.2019 年度は,この SMBH の成長と AGN フィードバックを宇宙論的銀河形成シミュレーションで銀河形成と整合的に扱うためのシミュレーションコードを開発した.その際,シミュレーションの分解能に結果が強く依存しないように,SMBH へのガス降着は高分解能シミュレーションの結果にもとづいて実装した. まず,AGN フィードバックよりも超新星爆発が星形成の抑制を担っていると考えられている天の川銀河程度の質量の銀河のシミュレーションをそれぞれ AGN フィードバックをありとなしの 2 種類行った.AGN フィードバックとしては AGN 光度の 2% (降着質量エネルギーの 0.2%)をフィードバックの効率として仮定した. その結果,AGN フィードバックを入れても,母銀河の星形成史はそれがない場合と比較してほとんど変化しなかった.一方,SMBH の成長は AGN フィードバックにより強く抑制されて,最終的な SMBH の質量は AGN フィードバックを考慮したものの方がそうでもないものよりも1桁以上小さかった. このことは,バルジの星質量や速度分散と SMBH 質量の観測的関係を用いて AGN フィードバックの効率を決定できることを意味する.こうして決定した AGN フィードバックを用いて大質量銀河のシミュレーション(そこでは AGN フィードバックにより銀河の星形成が抑制されていると考えられている)を行うことにより,AGN フィードバックに今回考えたものと別のモードが必要かどうかを明らかにできる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に書いたように SMBH 進化と AGN フィードバックの実装およびテストシミュレーションを終え,おおむね順調に進展している.ただし,まだ一つの初期条件に対してシミュレーションを行ったに過ぎず,今回の結果にどれほどの不定性があるのかは不明である.AGN フィードバックの効率を決定したのち,同程度の質量の別の銀河のシミュレーションを行うべきであろう.研究を律速しているのはやはりシミュレーション時間で,天の川銀河質量の銀河で約 1 ヶ月を要する.同じ数値分解能で銀河群 (今回の銀河の 10 倍の質量),銀河団(今回の銀河の 100 から 1000 倍の質量)のシミュレーションをどのように行っていくかが課題である.
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今後の研究の推進方策 |
今回の天の川銀河質量の銀河に対して,観測的に知られている SMBH 質量と母銀河のバルジの星質量・速度分散との間の関係を再現するように AGN フィードバックの効率を決定する.このようにして決定した AGN フィードバックを用いて,同程度の質量の銀河についてシミュレーションを行い,SMBH 質量と母銀河のバルジの性質の間に関係にどの程度の分散が出るのかを確認しておく. 今回用いた AGN フィードバック は一般に quasar-mode フィードバックと呼ばれるものであり,これとは別に SMBH への比降着率が小さい場合に radio-mode フィードバックという異なるフィードバックが存在し,それが大質量銀河での星形成を抑制しているという説もある.そこで,今回のものと同じモデルを用いて,銀河団スケールのシミュレーションを行い,quasar-mode の AGN フィードバックだけで,大質量銀河の星形成史を説明できるかを確認する.quasar-mode だけでは大質量銀河での星形成を止められない場合は,radio-mode のフィードバックを加え,ダークハロー質量に対して適切な星質量が得られるように調整する. 最終的に天の川銀河質量から銀河群質量に対して適切な銀河が得られるモデルが得られたらそれを銀河団形成シミュレーションに適用し,銀河の進化に対する環境効果を明らかにする.
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