研究課題/領域番号 |
19H01932
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
村上 尚史 北海道大学, 工学研究院, 講師 (80450188)
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研究分担者 |
西川 淳 国立天文台, 光赤外研究部, 助教 (70280568)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 太陽系外惑星 / コロナグラフ / バイオシグナチャー / 補償光学 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、将来のスペースコロナグラフ時代において我が国が重要な技術的貢献を果たすため、高性能な高コントラスト観測技術を獲得することである。その究極のサイエンス目標は、太陽に似た恒星のハビタブルゾーンに地球型惑星を発見し、その詳細な分析により生命の証拠(バイオシグナチャー)を検出することである。微弱な惑星シグナルをとらえるためには、すぐそばで輝く明るい主星(恒星)の光を10桁オーダーにまで強力に除去する必要がある。本研究課題で開発する技術は、(1) 恒星光を強力に除去する焦点面位相マスク、(2) 焦点面位相マスクを任意の望遠鏡に搭載できるようにする瞳面アポダイザ、(3) 観測装置内の光学素子の面粗さに起因する恒星残留ノイズをさらに除去する光波面補正技術(ダークホール技術)、などである。最終的にはこれらを統合することで、これまでにない観測性能を誇る「第二の地球」探査システムの実現を目指している。 2019年度の実績の概要は以下の通りである。(1)については、これまでに開発を推進してきたフォトニック結晶技術にもとづく焦点面位相マスクにおいて、観測可能な波長域が狭いという弱点を克服するため、多層化させた広帯域マスクの開発を推進した。多層化技術としては、同一バッチによって製作された複数のマスクを接着する手法を採用した。高い位置精度で接着するためのマーカデザインを検討し、下層のマーカの視認性を確保するよう照明を工夫することで、3層マスクにおける接着技術を確立した。(2)については、すばる望遠鏡など既存の望遠鏡を想定して、焦点面位相マスクの性能を最大に発揮するための瞳面アポダイザ開発を推進した。(3)のダークホール技術については、広く開発が進められている可変形鏡ではなく、液晶空間光変調器による光波面補正法の開発を推進した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)の焦点面位相マスクの開発では、これまでに複数の製造法による3層構造フォトニック結晶8分割位相マスクの試作を進めてきた。これまでに試作した3層マスクの性能評価を、室内試験により実施した。多波長光源を恒星モデルに見立て、恒星モデル光がどのくらい除去できるか(これをコントラストと呼ぶ)を測定し、理論的に予想されるコントラストとの比較を行った。2019年度は特に、測定コントラストと理論コントラストのずれの原因がどこにあるかの調査を進めた。具体的には、マスク固有の恒星残留光と、装置シミュレータの揺らぎなど外的要因による残留光の定量評価を行った。その結果、後者の外的要因を低減させることにより、測定コントラストがさらに改善される可能性が示唆された。 (2)の瞳面アポダイザの開発では、ワークステーションを導入し、さまざまな望遠鏡に対して恒星光除去を効率的に行うための最適なアポダイザ設計に向けた準備を進めた。また、これまでに開発した瞳面アポダイザと8分割位相マスクを組み合わせ、多波長光源を恒星に見立てた室内模擬観測を実施した。その結果、可視の広い波長帯にわたり恒星光が強力に除去されることを実証した。 (3)のダークホール技術では、当初は、2019年度に新規のSLMを導入した試験を実施することを計画していた。しかしながら、現有の2台のSLMにより問題の洗い出しをすることを優先させるべく計画を変更した。現有のSLMは、光波面の位相を細かく制御できず、地球型惑星探査に必要な10桁のコントラストに到達できない見込みである。2019年度は、細かい位相制御ができないSLMでも、より高いコントラストを実現できる新たな制御アルゴリズムの開発に着手した。計算機シミュレーションの結果、従来のアルゴリズムに比べて強力に恒星ノイズが除去できる見通しが得られた。 これらの成果を当初の研究計画と比べると、進捗は順調であると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、上述の3つの主要な要素技術の開発をさらに推進する。(1)の位相マスクの開発では、多波長試験のテストベッドの性能増強をはかるとともに、8分割位相マスクだけでなく、他の位相マスク(たとえば光渦マスクなど)に対しても多層広帯域化のための検討を進める。(2)の瞳面アポダイザの開発では、2019年度に導入したワークステーションを活用し、地上望遠鏡および将来のスペース望遠鏡に向けたアポダイザ設計を進める。また、開発したデバイスの初試験観測に向けて、地上望遠鏡への搭載に向けた準備を進める。地上望遠鏡による観測は近赤外域で行われることが想定されるが、近赤外対応の3層8分割位相マスクもすでに製造されている。(3)のダークホール技術では、新たなSLMを導入し、2019年度に着手した新たな制御アルゴリズムの室内試験に向けた準備を進める。 上述の要素技術の研究開発と並行して、これらを統合した観測システムの構築、性能評価のための準備も進める。2019年度には、観測技術開発のための2つの施設の立ち上げにも着手した。1つは、これらの要素技術開発を強力に推進するための施設である。この施設では、上述の要素技術の他、他の恒星除去法、光波面測定技術および補正技術など、さまざまな惑星探査技術の開発を行える環境を目指している。2019年度は光学系の設計および一部構築を完了しており、2020年度には光学系構築を完了し、上述の多波長試験やアポダイザ試験などを開始する。もう1つは、要素技術を統合した観測システムシミュレータである。このシミュレータも、基本設計および一部光学系の構築に着手しており、2020年度に大よその完成を目指す。新たに導入するSLMは後者のシミュレータに設置し、恒星光除去性能の室内試験に着手する。
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