太陽系を含む惑星の原材料となる星間ダストは,進化末期の巨星大気での凝縮物に加え,分子雲で凝縮したダストも重要であることが指摘されている.本年度は,本課題で導入した分子線エピタキシー装置に,抵抗加熱式の高温セルを導入し,これまでの2成分系から3成分系の実験を可能にした.改造した装置で,昨年度までの実験を発展させてSiO2-MgO-FeO系での三成分同時凝縮実験をおこなった.また,水蒸気をチャンバーに導入し,77Kの低温条件下でSiO2-MgO-H2O系での凝縮実験をおこなった.生成物は赤外スペクトル分光分析を行ったほか,走査型電子顕微鏡で観察,組成分析した後,収束イオンビーム加工による薄膜化をおこない,透過型電子顕微鏡で構造を調べた.実験生生物の赤外スペクトルから,氷と同時凝縮したダストと通常のダストで赤外スペクトルが異なる可能性を示した.また,誘導熱プラズマ装置を用いて進めてきたAl-Ca-Si-Mg-Fe-O系の実験から,彗星塵に含まれる非晶質珪酸塩中の金属鉄包有物が赤外スペクトルに影響を与えないことを明確に示し,さらに,観測と実験生成物の赤外スペクトルの比較から,星周・星間非晶質珪酸塩は,これまで考えられてきたような 純粋なMgFe珪酸塩ではなくAlイオンが含まれた珪酸塩でなければならないこと,プレソーラー粒子中にもそのようなAlに富む非晶質珪酸塩が存在する可能性を初めて示した.本課題により,熱プラズマ法だけでなくMBE装置を用いることで,従来より広い条件での実験が可能になり,多様なダスト形成場で異なる組成,構造,組織をもつダストが凝縮しうること,またそれが観測により検証可能であることをを示した.
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