研究課題/領域番号 |
19H01936
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研究機関 | 甲南大学 |
研究代表者 |
田中 孝明 甲南大学, 理工学部, 准教授 (20600406)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 宇宙線 / 超新星残骸 / 粒子加速 / X線天文 |
研究実績の概要 |
超新星残骸の衝撃波において荷電粒子が加速され、宇宙線が生成されていることは、観測的にも理論的にも明らかになりつつある。これまでの観測で得られている加速された粒子に関する情報は、比較的エネルギーの高い相対論的粒子の情報に限定されていた。本研究では、より低いエネルギーを持つ準相対論的粒子からの放射に注目して、観測的・理論的研究を進めている。その放射に基づいて、個々の超新星残骸が加速している宇宙線の総量や、粒子が衝撃波加速に注入される過程を明らかにすることが目的である。本年も前年度までから引き続き、準相対論的粒子からの放射性分である、中性鉄輝線と非熱的制動放射の探査を進めた。中性鉄輝線の探査についてはX線天文衛星「すざく」、XMM-Newton、およびChandraの公開データを用いた。非熱的制動放射の探査については、10 keVを超える硬X線帯域に優れた感度を持つNuSTAR衛星の取得済みのデータを中心に用いた。その結果、今のところ、新たにこれらの放射成分を検出することはできていないが、厳しい上限値を得ることができており、現在、論文としてまとめているところである。
また、こうしたデータ解析を通じて、当初想定していなかった副次的な成果も得られている。Ia型超新星爆発の残骸3C 397のXMM-Newton衛星のデータを解析したところ、TiやCrの存在比が異常に高い領域を発見した。この結果から、このIa型超新星爆発を起こした白色矮星が通常よりも約3倍も高密度であったことが示唆された。別の結果として、超新星残骸IC 443に関するものがある。XMM-Newtonのデータを用いて領域ごとのX線スペクトルを調べることで、過電離プラズマと呼ばれる特異なプラズマの成因を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
中性鉄輝線の検出を目指したX線データの解析は順調に進んでいる。現在進行中のデータ解析についても、その多くは、結果を次年度内に論文としてまとめて発表できる見込みである。これまでに得られている観測的研究の成果は、2022年度末に打ち上げ予定のX線天文衛星XRISMの観測計画にフィードバックしており、今後の発展が見込まれる。一方で、NuSTAR衛星による硬X線帯域の非熱的制動放射の探査については、NuSTAR衛星の感度の限界も見えてきてきている。上限値だけであっても、今後、論文として発表していく予定であるが、本研究終了後までを見通すと、NuSTARよりも優れた感度を持つ観測衛星が必要であることが課題として明らかになりつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでのX線データの解析を継続するとともに、フェルミ衛星によるGeVガンマ線データやH.E.S.S.望遠鏡を用いたTeVガンマ線のデータの解析も行い、より広いエネルギー帯域で、加速された粒子のエネルギー分布を制限する。また、得られた成果を研究協力者の理論研究者とともに議論を進め、加速される粒子の総量や加速プロセスへの粒子の注入過程を明らかにする。XRISM衛星の打ち上げに向けて観測計画やデータ解析の計画を立案し、打ち上げ後に迅速に科学的成果を挙げられるようにする。硬X線帯域については、NuSTAR衛星のデータ解析を継続して進めるほか、将来の高感度硬X線観測の実現に向けた研究を開始し、本研究終了後も発展を見込めるようにしたい。
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