研究課題/領域番号 |
19H01943
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
秦 和弘 国立天文台, 水沢VLBI観測所, 助教 (60724458)
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研究分担者 |
笹田 真人 広島大学, 宇宙科学センター, 特任助教 (10725352)
萩原 喜昭 東洋大学, 文学部, 教授 (60399300)
田崎 文得 国立天文台, 水沢VLBI観測所, 特別客員研究員 (10800609)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 電波天文学 / ブラックホール / VLBI / 活動銀河核 / ジェット |
研究実績の概要 |
巨大ブラックホールから噴出する相対論的ジェットの生成・収束・加速機構の解明は現代天文学における最重要課題の1つである。本研究では、230GHz帯国際VLBI観測網(EHT)によるジェット生成領域の高解像度観測と、22/43GHz帯東アジアVLBI観測網による収束・加速領域の偏波観測を組み合わせ、世界に先駆けて生成・加速・収束領域における「磁力線構造」の解明を試みる。そのために石垣・小笠原局の両偏波受信システムを整備する。そして得られた磁力線構造をもとに、現在最有力とされる理論「磁場駆動型モデル」の妥当性を確かめる。
2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大により、本研究課題の柱に据える予定だった2020年4月のEHT/EAVNキャンペーン観測が中止になるなど、大変厳しいものであった。しかしこうした状況においても、我々は研究計画をアップデートすることで以下のような成果を着実に生み出すことができた。まず、2017年に取得されたM87のEHT230GHzのデータについて、EHT国際チームで協力してデータ分析をすすめ、史上はじめてM87のイベントホライズンスケールの磁場構造をマッピングすることに成功した(EHT Collaboration et al. 2021a,b)。本論文では共同研究者の田崎・本間・秋山らによるスパースモデリングの画像復元技術が大いに貢献した。次に、VERAを含むEAVNを用いて、主に明るいブレーザーを中心に数多くの両偏波観測を実施し、VERA両偏波受信システムの性能評価を大きく前進させるとともに、長年の目標であったEAVNによるジェットの偏波分布マップをついに作成することに成功した。観測成果の科学的考察はこれからが本番であるが、EAVNとして偏波マップを作成できたことは本研究課題における大変大きなマイルストーンである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、新型コロナウイルスの感染拡大により、本研究課題の柱に据える予定だった2020年4月のEHT/EAVNキャンペーン観測が中止になるなど、非常に厳しいものであった。しかしこのような状況においても、研究計画をアップデートすることで我々は以下のような成果を生み出すことができた。まず、2017年に取得されたM87のEHT230GHzのデータについて、EHT国際チームで協力してデータ分析をすすめ、史上はじめてM87のイベントホライズンスケールの磁場構造をマッピングすることに成功した(EHT Collaboration et al. 2021a,b)。次に、VERAを含むEAVNを用いて、主に明るいブレーザーをターゲットに数多くの両偏波観測を実施した。これにより、VERA両偏波受信システムの性能評価を大きく前進させるとともに、EAVNによるジェットの偏波分布マップを初めて作成することに成功した。本成果は本研究課題における大きなマイルストーンであり、来年度以降の本格的な科学観測にむけた大きな一歩となった。現在はさらなる観測の準備をしているところである。以上の理由により、本研究課題は概ね順調に進んでいると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は新型コロナウイルスの影響などにより、当初の計画をアップデートしつつ進めている。このような状況でも、昨年度はVERA4局を用いて3C454.3, CTA102, BLLacなどパワフルはAGNジェット(いわゆるブレーザー)について両偏波観測を数回実施し、ジェット根元の偏波マップを得ることができた。 研究最終年度の本年度は、昨年度得られたブレーザーの偏波マップの考察を進め、ジェット生成領域の磁力線構造を議論し、査読論文執筆に着手する。また並行して、VERA及びEAVNを更に広帯域化させたアップグレード両偏波観測を推進する。具体的には、これまで主に1-2Gbpsの記録レートで行われていた観測を、大幅に記録レートを高めた4-32Gbps観測に挑戦する。これにより、微弱な信号である偏波フラックスを更に高い信号雑音比で検出できるようになり、また各バンドの同時受信帯域が広がることで、偏波角のバンド内回転(ファラデー回転)が測定可能になるなど、これまで未開拓のパラメータスペースの探求が実現する。このような新たな探査が重要となる天体は、クエーサーや狭輝線セイファート1型銀河などいわゆるガスが豊富で質量降着率が大きなタイプのブラックホールジェットである。この場合、M87やBLLacでは見られないような非常に大きなファラデー回転が期待され、広帯域のEAVN両偏波観測で非常に大きな値を検出できる可能性がある。以上の新規観測は本研究期間内に成果をまとめることは難しいかもしれないが、今後本研究分野を更に発展させていくための将来にむけた種まきであり、本年度中に可能な限り観測データを数多く取得したい。
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