研究課題/領域番号 |
19H01944
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研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
末松 芳法 国立天文台, 太陽観測科学プロジェクト, 准教授 (50171111)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 太陽光球 / 太陽彩層 / 磁場観測 / 面分光 / 近赤外狭帯域フィルター |
研究実績の概要 |
本研究の鍵となる口径1.5m太陽望遠鏡の分解能を生かした高精度偏光分光観測を実現する、面分光装置及び近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターの光学設計を行い、面分光装置の日本側担当のスライサーユニットの製作を行った。面分光は、2次元の太陽像を1次元の短冊状に切り分け、スリット状の1次元配列に並び変え分光器に投入する前光学系となる物である。これにより光球・彩層で局所的に起こるダイナミック現象を的確に捉え、物理診断に必要な高分散分光観測が実現できる。スペイン・テネリフェ島にある口径1.5m太陽望遠鏡と高分散分光器に適用するため、年度前半で、スペイン側(研究協力者: Drs. Collados, Dominguez)と共同で面分光装置の光学設計、構造設計を行った。後半で、日本側担当で面分光装置のキーコンポーネントとなるマイクロ・イメージスライサー(幅35μm、長さ2㎜、16スライサー)を製作し、可視・近赤外域で反射率の高い保護膜付き銀コーティングを行い、完成させた。マイクロ・イメージスライサーの評価試験を国立天文台の設備を用いて行い、寸法・傾き角等の仕様を満足していることを確認した。面分光の研究の一部は、European Commissionが公募したHorizon 2020 Call: H2020-INFRAIA-2018-2020に、SOLARNETプロジェクトとして採択されたものであり、SOLARNET進捗報告会でマイクロ・イメージスライサーの成果を発表し、成果報告書をまとめてSOLARNETプロジェクトに提出した。また、次年度製作予定のニオブ酸リチウムエタロンを用いた近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターの光学設計を確定するため、評価用のニオブ酸リチウムエタロンの光学試験を京都大学・飛騨天文台の太陽望遠鏡・高分散分光器を用いて行い、仕様確定に必要なデータを得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
面分光装置については、スペイン側との共同開発で行っており、面分光装置の光学設計、構造設計を共同で行い、それぞれの得意な光学コンポーネントを分担製作することで研究を加速する計画であった。日本側担当のマイクロ・イメージスライサー・ユニットは予定より遅れたが、年度内に完成することができた。一方、残りの光学系はスペイン側の担当であるが、設計が当初より大幅に変更され、必要な製作経費が増えたことで、製作が遅れている。このため、年度当初に計画した、マイクロ・イメージスライサー・ユニットのスペイン側が製作する面分光全体構造モデルとフィットチェックは次年度に持ち越しとなっている。一方、ニオブ酸リチウムエタロンを用いた近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターについては、エタロンの小口径サンプルを用いて、仕様を決めるための評価試験ができ、次年度の製作に向けて準備を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
高精度偏光分光観測を実現するため、引き続き、面分光装置及び近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターの開発を行う。昨年度製作した面分光装置のキーコンポーネントであるマイクロ・イメージスライサーの光学的評価を行う。面分光は、2次元の太陽像を1次元の短冊状に切り分け、スリット状の1次元配列に並び変え分光器に投入する前光学系となる物である。面分光装置はスペイン・テネリフェ島にある口径1.5m太陽望遠鏡と高分散分光器に適用するもので、スペインとの共同開発で計画を進めており、スペイン側が製作する面分光全体構造モデルとフィットチェックを行い、面分光装置を完成させ、太陽観測に適用していく。面分光装置のデータ取得・較正・解析ソフトの開発もスペインと共同で行う。同時に近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターの光学・構造設計を確定し、製作を開始する。近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターは、厚さの異なる2枚(0.9㎜及び1.2㎜)のニオブ酸リチウムエタロンからなり、電圧で波長チューニングが可能なユニークなフィルター装置である。開発済みの液晶リターダーによる偏光変調装置と組み合わせて、京都大学飛騨天文台のドームレス太陽望遠鏡で試験観測を行い、合わせて光球磁場・速度場、彩層温度・速度場を導出するデータ解析ソフトの開発を行う。面分光装置は視野が狭いのが欠点であるが、ニオブ酸リチウム結晶狭帯域ユニバーサルフィルターを用いることで、広視野での偏光分光観測を同じスペクトル線で実施することが可能となり、光球・彩層の磁気カップリングを多角的な観点から研究できる。得られた結果を学会・関連する研究会にて発表する。
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