研究課題
太陽彩層はコロナと同様、加熱・ダイナミクスの物理機構が未解決のままである。光球下で生成された磁気エネルギーは彩層を通過する過程で非線形化し、乱流、衝撃波、ジェットなど時間変化の激しい現象を引き起こし、光球より高温の彩層、コロナが生み出される。動的現象による磁気エネルギー輸送と散逸の一連のプロセスを直接観測できるのが彩層であり、その現場に迫ることが太陽物理研究の最先端である。このため、本研究では必要な分解能を生かせる口径1.5m太陽望遠鏡で運用する高精度面分光装置、狭帯域フィルター装置を開発し、高空間・高時間分解能観測がもたらす良質な磁場データ解析により磁気エネルギーの輸送・加熱機構の理解を進展させることを目指している。一昨年度は、スペイン側の研究協力者と共同で面分光装置の光学設計、構造設計を行い、面分光装置の日本側担当のスライサーユニットの製作を行った。本年度は、もう一つの観測装置である口径1.5m太陽望遠鏡の分解能を生かした高精度偏光分光観測を実現する、近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターの光学設計を確定し、製作を行った。評価用のニオブ酸リチウムエタロンの光学試験を京都大学・飛騨天文台の太陽望遠鏡・高分散分光器を用いて行い、エタロン光学特性、電圧変化率などの基本データを得、解析を行った。近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターの主たる観測波長である、1.083μm及び1.564μmを取り出すバンドパスフィルターの仕様を確定し、製作を行い、近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターに必要な開発を予定通り完了した。
2: おおむね順調に進展している
面分光装置については、スペイン側との共同開発で行っており、面分光装置の光学設計、構造設計を共同で行い、それぞれの得意な光学コンポーネントを分担製作することで研究を加速する計画であった。日本側担当のマイクロ・イメージスライサー・ユニットは予定よりやや遅れたが、一昨年度内に完成することができた。一方、残りの光学系はスペイン側の担当であるが、設計が当初より大幅に変更され必要な製作経費が増えたこと、またCOVID-19の影響で、製作が大幅に遅れている。このため、年度当初に計画した、マイクロ・イメージスライサー・ユニットのスペイン側が製作する面分光全体構造モデルとフィットチェックは次年度に持ち越しとなっている。一方、ニオブ酸リチウムエタロンを用いた近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターについては、エタロンの小口径サンプルを用いて、仕様を決めるための評価試験を行うことができ、要求する口径70㎜の近赤外狭帯域ユニバーサルフィルター、及び観測波長である1.083μm及び1.564μmを取り出すバンドパスフィルターの製作・評価を予定通り完了できている。
高精度偏光分光観測を実現するため、引き続き、面分光装置及び近赤外狭帯域ユニバーサルフィルターを完成させ、太陽観測を実施していく。COVID-19の影響で、当初予定していたスペインとの共同開発で行う面分光装置の完成がスペイン側の光学系製作が遅れており、また観測をスペイン・テネリフェ島の口径1.5m太陽望遠鏡(GREGOR)で行う計画であったが、渡航の目途が立たないので、本年度の計画を実情に即して以下のように変更する。面分光装置は本研究で完成させたマイクロ・イメージスライサー(幅35μ、長さ2㎜、16スライサー)がすでにあり、これを活用するため、残りの光学系を既存の瞳鏡や折り曲げ鏡と組み合わせ、半分の8スライサーで太陽観測ができるように改良する。また、スペイン側の光学系製作を加速するため、完成したスライサーユニットをスペイン側に一時的に輸送することも考える。もう一つの観測装置である近赤外狭帯域フィルター装置は、観測に適用するための波長チューニングのための温度制御や電圧制御を完了する。面分光装置及び近赤外狭帯域フィルター装置の光学系調整、観測制御模擬は国立天文台・三鷹キャンパスの太陽分光観測設備を用いて国立天文台・太陽観測科学プロジェクトの協力を得て行う。本観測は高分解能が必要であり、このため京都大学飛騨天文台の0.6mドームレス太陽望遠鏡の共同観測時間に申請し、観測時間を確保している。観測装置一式を飛騨天文台に持ち込んで観測を実施し、来年度の口径1.5m太陽望遠鏡(GREGOR)による高空間・高時間分解能の高精度偏光分光観測に備える。
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