研究課題
今年度は木星磁気圏の電流系に着目した研究で成果を挙げた.イオ衛星の火山活動に由来する二酸化硫黄が生じさせる磁気圏全体のプラズマダイナミクスに加えて,木星電離圏での電気伝導度に関する研究を推し進め,電離圏におけるイオンの存在量との相関について議論した.その結果,木星磁気圏では流星物質(すなわち惑星間航行物質)に由来するプラズマが,ペダーセン電流の駆動に重要な役割を果たしていることが分かった.これは,地球との対比としても興味深いものである.地球は木星に比べて重量が小さいため,流星由来のイオンの量は少ない.従って,木星のように磁気圏電流系に及ぼす影響は無視できるという点で,比較惑星的な示唆に富んでいる.また,今年度はひさき衛星のデータ解析研究から得られた知見を応用した地球磁気圏の研究もすすめられた.この研究では,地球の高度1000km付近を周回するひさき衛星の光検出器が,高エネルギー陽子や電子に対しても感度を持つことを利用したものである.これまで打ち上げから7年以上経過して蓄積されたデータから,これまでノイズとして除去されていた部分に着目し,これらが地球放射線帯の粒子に由来するものであることを理論的に裏付けるシミュレーション研究を行った.さらに,この“ノイズデータ”が,ひさきの高度やL値,さらには年単位の時間変動を示していることをデータ解析から明らかにした.この結果は,単に地球上空1000kmにおける高エネルギー粒子に関する物理という点だけでなく,この軌道を航行する人工衛星に対する耐放射線環境性能向上に向けた開発への入力情報としても活用できる.
2: おおむね順調に進展している
本年度は木星磁気圏のプラズマダイナミクスに関して,特に電離圏電導度に関する理論研究において進捗があった.これは,木星磁気圏プラズマの電流系の全体像を把握する上で重要な成果である.また,ひさき衛星の軌道特性および観測装置の特性を利用して,本来ならばダークとして除去されるデータを活用することで,地球周辺のプラズマ環境に関する研究も発展させることができた点でも,順調に進行していると言える.
今年度の成果や,これまでのひさき衛星がもたらした木星磁気圏プラズマ全体に関する研究を総括する.特に,イオの火山活動に起因して増減するプラズマの量が動径方向に拡散されることで生じさせる高温電子の逆流入現象に対する理解と,尾部でのリコネクションに由来する高温電子の動径拡散,さらには電離圏電導度を定量化することで明確になるペダーセン電流の量的議論などと融合させた議論を発展させる.さらに,これらの成果を基に,将来の探査ミッションへの提言をまとめる.とくに,ひさき衛星の開発・運用から得られた知見,反省点を活かして,より高い波長・空間分解能を持つ大型の宇宙望遠鏡の開発に着手する.
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (1件)
Journal of Geophysical Review space phyiscs
巻: 127(3) ページ: e2022JA030312
10.1029/2022JA030312
Space Weather
巻: 19 ページ: e2020SW002611
10.1029/2020SW002611