研究課題/領域番号 |
19H01951
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
渡邊 誠一郎 名古屋大学, 環境学研究科, 教授 (50230967)
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研究分担者 |
桂木 洋光 大阪大学, 理学研究科, 教授 (30346853)
諸田 智克 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (30415898)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 小惑星 / 微惑星 / 粉体 / 回転変形 / 惑星探査 / 高速度回転装置 / 遠心力 / コマ型形状 |
研究実績の概要 |
コマ型小惑星の形状を決定する因子として、万有引力と遠心力を受ける砂礫集団の摩擦特性に特に注目し、その定量的評価を目指した数値シミュレーションと実験系の構築するとともに、探査データから地形緩和過程の解析を進めた。粒子間凝集力の効果を実効的な摩擦角で表現した粉体平滑化粒子法による自己重力系の数値コードを開発し、高速自転する粉体の挙動をシミュレートすることに成功した。その結果、実効的摩擦角が大きい場合、地滑りによって小惑星リュウグウに似たコマ型形状が形成されることがわかった。また、粉体(砂礫)斜面を高速回転させて崩壊過程の基礎的な物理挙動を調べる砂山回転実験装置の設計・製作・テストを名古屋大学全学技術センターの装置開発室と共同で行った。実際に開発した実験系としては、一辺10 cm程度の擬二次元粉体セルを高速回転させることで、最大で遠心力が重力の10倍以上にできることを目標に設定し,装置の設計・制作を行った。擬二次元セル内に粉体試料をセル中心部(回転中心)がピークとなるような砂山形状に積層させ、セルを回転させることによりその砂山形状の変化を小型カメラにより取得するシステムを構築した。さらに、リュウグウのクレーター地形緩和過程を調べるためのクレーター地形の同定とそれらの形状評価にもとづく予備解析を行った。さらに、リュウグウ表面の流動を調べるために、はやぶさ2による小惑星リュウグウの画像データから、表面岩塊の同定を行い、その空間分布と形状(サイズと長軸方向)を調査した。クレーター形状と岩塊の統計解析には2019年度に購入した計算機を活用した。本課題の準備過程を含めた成果はScienceやNature等に掲載された論文に盛り込まれた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値シミュレーションに関しては、粉体平滑化粒子法による数値コードが完成し、実効的摩擦角が大きい場合にコマ型形状が再現されるなど具体的成果が得られつつある。米国の研究協力者との打ち合わせで、有限要素法でのシミュレーションとの比較も進められる状況にある。高速度回転実験系に関しては、設計・製作・テストは目標通り進展している。コマ型小惑星の形状を決定する因子として,万有引力と遠心力を受ける砂礫集団の摩擦特性に特に注目し、その定量的評価を目指した実験系の構築を行うことができた。遠心力を重力に比べて十分大きくすることのできる実験系を構築でき、摩擦を持つ粉体・砂礫が重力と遠心力同時にを受けたときの挙動を十分な精度で観察でき、その基礎物理挙動解析に耐え得るものとなったと評価できる。装置開発においては,高速回転時にも砂山形状を安定的に撮影できるようシステム全体の安定性と回転部の軽量化などに特に配慮した。探査画像解析に関しては、リュウグウの大部分の領域をカバーするはやぶさ2の画像データを用いて直径10m以上のクレーターを100個以上同定し、複数の計測方法を用いて地形プロファイルを抽出し、地形緩和度の指標となるクレーター直径/深さ比、クレーター内壁の最大斜度の計測を行った。直径100m以下のクレーターにおいて、期待されるサイズ頻度分布よりもクレーター数密度が低く、何らかのクレーター緩和過程によって小クレーターが消去されていることや、赤道帯の直径3m以上の岩塊では、長軸方向が南北方向を向くものが有意に多いことなどがわかるなど順調に成果が得られている。なお,研究成果の発表および海外の研究協力者との打ち合わせはCOVID-19の影響により延期したものの一部実施できなかった.
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今後の研究の推進方策 |
数値シミュレーションに関しては、天体の自転加速率を変化させて結果への影響を調べる。また、粉体平滑化粒子法の結果と有限要素法による結果を比較する予定である。また、クレーター形成時の高速自転の影響についても、研究協力者とともに数値シミュレーションを行う予定である。実験に関しては、2019年度に開発とテストを行った砂山回転実験装置を用いて、系統的実験を行い重力と遠心力が比率を変えながらかかる砂山の形状変化についての物理的考察を行う。砂山を形成する粉体材料としては、球形のビーズや砂のほか、リュウグウ表面を構成する多孔質岩塊を模擬するため微小粒子の凝集によるダスト粒子群を用いる。得られた実験データを解析しその挙動を理解すための物理モデル等を考案して、成果発表を行う予定である。さらに、高速回転時の部品の脱落等を防ぎ安全性を高める装置改良も行っていく。探査画像解析に関しては、地形緩和度のクレーターサイズ依存性や地域依存性を調査し、既存の緩和過程モデルとの比較を行う予定である。また、岩塊の埋没具合と長軸方向との関係性を調査し、岩塊の偏向と表面流動との関係を調査する。
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