研究課題
本研究は、火星表面において、微生物を含む有機物を高感度に検出する装置である生命探査顕微鏡(Life Detection Microscope: LDM)の実験室レベル試験機(Bread Board Model: BBM)を製作し、科学目標(1 μm/pixelの分解能と10^4 cells/gの検出感度)の実現可能性を検証することを目的としている。2019年度は、試料を蛍光色素で染色する試料装置部の製作を行い、BBMの構成部品を揃えることができた。これにより本研究期間中にBBMが完成する目処がたった。製作した試料装置部には、回転する試料皿ローター上に、試料処理ユニット(気密蓋付きの試料筒、2つの染色液筒、限外濾過筒で構成)が1ユニット配置されている(実際の火星探査では、20ユニット装着可能)。ローターの直径は、当初120 mmを目標としていたが、コストの問題等により約240 mmとした。蓋の開閉機構は、バネで閉じられた蓋に形状記憶合金を取り付け、加熱により形状記憶合金が収縮し蓋が開く構造である。試作機を製作し、開閉に必要な電力値を求めてから、試料装置部の仕様を決めた。染色液筒下部にアルミ箔を貼り、針によって穿孔し、試料筒に染色液を添加する。試料筒に入った染色液は、限外濾過筒内の吸水性物質に吸引され、濾過筒下部に貼られたポリカーボネート製フィルター上に試料が濃縮される機構である。試料筒および限外濾過筒下部のローター部分には、顕微鏡で観察するための石英窓を設置した。ローターの回転、気密蓋の開閉、染色液の添加はパソコンから制御できるようにした。また、有機物と鉱物を識別するための基礎データ取得を目的に、蛍光色素で染色された微生物と鉱物の自家蛍光の蛍光強度を、波長別に測定した。その結果、蛍光強度と色(スペクトル)の違いを利用することにより、両者の識別は可能であると示唆された。
2: おおむね順調に進展している
全体として、ほぼ計画通り進展している。LDMは、顕微鏡部、試料装置部、光源部、カメラ部から構成されている。カメラ部は市販のCMOSカメラを用い、光源部はレーザーダイオード(蛍光観察用)と3色LED(明視野観察用)を用いて製作した。本申請時点の計画では、2020年度中に、顕微鏡部製作と試料装置部の設計・製作を完了する予定であったが、科研費の減額により、顕微鏡部の製造と試料装置部の設計は、他の外部資金に応募し採択されたことにより、2019年度に顕微鏡部の製作が完了した。本研究で製作した試料装置部と合わせ、2019年度にBBMの構成部品の製作を完了することができた点では、計画以上に進展した。試料皿ローターの直径が、計画していた値よりも大きくなったが、さらに小型化する為には試料筒等の配置が複雑になり製作コストがかかることから、小型化は、本研究で科学目標を検証した後、エンジニアリングモデルを製作する段階で再検討する事にした。染色データの取得においては、予定していた有機物試料のうち、プロテノイドなどの非生物系有機物のデータ取得がやや遅れている。実験に使用した原理実証顕微鏡(BBM製作の検討にあたって、同じ光学系に製作した試験用顕微鏡)に、励起光漏れなどの不具合が見つかり、原因の究明と修正に時間がかかったことが原因である。市販の蛍光顕微鏡を使って対応したが、全てのデータを取りきれなかったので2020年度に引き続き実験を行う。
BBMを構成する部品は揃ったので、各装置の性能試験を個別に行った後、BBM全体を組み立てる。顕微鏡部は、光軸が傾斜した特殊な仕様であり、それに合わせて試験用試料台を製作し、励起光漏れ、分解能、焦点などを確認する。問題が見つかれば、製作を委託した(株)ニコンと協議し修正する。試料装置部は、グリセロール溶液を染色液筒に入れ、アルミ箔の穿孔などの染色液添加機構の動作確認を行い、問題点があれば、製作を委託した(株)トヤマと協議し修正する。また、昨年度に引き続き染色データの取得を行う。原理実証顕微鏡の不具合に備え、市販の蛍光顕微鏡も使ってデータを取得し、蛍光色素濃度などの染色条件を決定する。これらの試験終了後、組み立てたBBMを使って有機物試料や火星模擬土の染色試験を行い、分解能と検出感度を検証する。問題点としては、新型コロナウイルスの感染対策による外出自粛要請により、染色データの取得実験が遅れていることである。対応策としては、実験可能な状況になった後、アルバイトを雇用するなど人的資源を投入して遅れを取り戻す予定である。
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ぶんせき
巻: 10 ページ: 474-477