月面への流星体衝突によって生じる閃光の検知を、熱赤外カメラ(波長10ミクロン)を用いた地上観測によって世界で初めて成功させるため、前年度に製作した非冷却ボロメータモジュールを東北大学が所有するハワイのハレアカラ天文台に設置されたT60望遠鏡のカセグレン焦点に取り付けるための治具の設計を行なった。同時に、遠隔操作で観測を行うためのソフトウエアの整備を行なった。非冷却ボロメータモジュールは、フレームレート60HzのVGAタイプの検出器であるため、16bitのデジタルデータを連続画像として出力するには多量のデータを取り込む必要がある。この要件を満たすため、データをギガビットイーサネットケーブルを介して転送する環境を整えることで、数十ミリ秒の閃光を画像劣化なく検出するために開発したソフトウエアが連続画像を無圧縮で外部の高速記録媒体に保管できることを実証した。 地上観測に先立ち、JAXA宇宙科学研究所の真空槽を利用した衝突閃光実験を継続した。この実験は直径6mmのポリカーボネート球を月面を模擬した砂に真空環境下で衝突させ、その様子を熱赤外カメラを用いて撮像するものであるが、前年度とは真空度や対象となる砂の種類を変えて実験した。これらの結果を用い、撮像時より数ミリ秒前の衝突直後における地表面の温度を、連続画像の全ピクセルを用いて二次元的に算出することに成功した。さらに、衝突によって運動エネルギーから地表面の熱エネルギーへ受け渡される割合を概算した。これにより、月面観測から流星体の衝突エネルギーの地表面への熱的な寄与を定量的に議論できることが示された。
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