研究課題/領域番号 |
19H01962
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
渡部 雅浩 東京大学, 大気海洋研究所, 教授 (70344497)
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研究分担者 |
塩竈 秀夫 国立研究開発法人国立環境研究所, 地球環境研究センター, 室長 (30391113)
建部 洋晶 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 気候モデル高度化研究プロジェクトチーム, ユニットリーダー (40466876)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 気候変化 / 海面水温 / 全球気候モデル / 温暖化予測 |
研究実績の概要 |
過去100年間に地球の平均地表気温は約0.8℃温暖化し、特に最近の30~40年は温暖化が著しいことが観測データから明らかになっている。それとともに、全海洋の海面水温(SST)は、過去100年間で0.53℃上昇しているが、日本周辺では世界全体に比べ上昇が倍以上も大きい。。SSTが高くなると、沿岸海洋の生態系への影響や猛暑の誘発要因となるなど、日本社会にとって負の影響が懸念されるが、長期的なSSTの上昇が日本周辺で特に大きい理由は明らかになっていない。 本研究では、信頼できるSSTデータが利用可能な20世紀中盤から最近までの期間について、日本周辺海域のSST変化傾向を確認した上で、他海域と比較して顕著に大きなSSTの上昇がどのように生じたかを、当研究所で開発してきた全球気候モデルMIROCを用いた数値シミュレーションから解明することを目指す。具体的には、既知の境界条件(温室効果ガスや太陽活動、エアロゾルなど)の変化を全て与えた20世紀以降の気候再現実験および、境界条件のうち特定の要素を産業革命前の条件に固定して計算を繰り返す気候変化要因分析実験を行い、結果を比較解析した。その結果、以下の点が明らかになった。 1) 日本周辺のSSTは1980年頃までわずかな低温化傾向、その後は急激な温暖化傾向を示しており、温室効果ガスの増加が期間を通じた温暖化に寄与する一方で、硫酸性エアロゾルの排出量変化が10年規模の水温変化を説明する。 2) 気候システムへの強制が温室効果ガスかエアロゾルかによらず、システムの応答は大気・海洋双方の変化を通じて日本周辺のSSTを全球平均よりも大きく変化させるように働く。大気は、海洋よりも大きく昇温するユーラシア大陸上の暖かい空気を東へ運ぶ一方、海洋は黒潮の流軸が北にずれるように応答することで、どちらも日本周辺のSSTを上昇させることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
MIROCを用いた数値実験の解析は順調に進行し、期待通りの成果をあげることができた。また、日本周辺のSSTを上昇させるメカニズムのうち、不確実性が高いと考えられる大規模大気循環の温室効果ガス・エアロゾル強制に対する応答については、CMIP5のマルチモデルシミュレーションのデータを補足的に解析し、メカニズムを支持する結果を得た。これらの成果は、論文としてまとめられ、Journal of Climateに投稿中である。 本年度の研究成果は、国内学会・研究集会では発表済みで、次年度に予定されていた国際学会でも報告予定であった。しかし、コロナウィルスの影響で国際学会はキャンセルされたため、成果の公開は論文の雑誌掲載をもってかえることとする。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究から分かってきた、日本周辺のSSTを上昇させるメカニズムに関連して、2つの疑問が派生してきた。すなわち、 1) 20世紀以降の観測データおよび気候モデルのシミュレーションでは、大陸上の昇温が海洋上よりも大きい。この理由は複数考えられるが、温暖化で大陸がより昇温するメカニズムを統一的かつ定量的に説明することができていない。 2) 黒潮などの中緯度の海洋循環を決めている大気場の変化は、熱帯太平洋のSST昇温パターン、特に東西勾配の変化に大きく影響を受けると考えられるが、過去の観測データでは東西勾配が強化、気候モデルの将来変化シミュレーションでは弱化と食い違いがある。 今後は、上記の疑問を気候モデルのさまざまな数値シミュレーションを用いて明らかにしてゆく予定である。1)については、日本周辺のSST上昇に寄与するユーラシア大陸の昇温を定量的に決めるメカニズムを、条件を理想化したMIROCの温暖化シミュレーションを用いて調べる。2)については、過去のSST東西勾配の変化が自然の変動である可能性が指摘されているので、複数の気候モデルを用いた大規模アンサンブルシミュレーション(自然変動と温暖化応答を切り分けできる)を用いて解析する予定である。
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