研究課題/領域番号 |
19H01968
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉川 裕 京都大学, 理学研究科, 教授 (40346854)
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研究分担者 |
馬場 康之 京都大学, 防災研究所, 准教授 (30283675)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 波と流れの相互作用 / 海洋表層混合 / 波解像数値実験 / 乱流・波浪観測 |
研究実績の概要 |
前年度に引き続き、海洋表層の砕波しない波が単独で引き起こす混合に関する数値実験を、波解像数値模型を用いて実施した。粘性による流れと波の相互作用により生じた筋状の2次循環が、時間と共に形状を変化させながら、幅を広げつつ深まってゆく様子が観察された。混合を担う渦度の生成要因を調べるためエンストロフィーの収支解析を行ったところ、有限振幅に達して混合を継続して引き起こす段階においても、波の粘性による流れと波の相互作用が2次循環を引き起こし、混合を引き起こすことが明らかになった。同時に、波の軌道運動流速そのものが各深度で混合を引き起こすという先行研究の提案は、少なくとも本実験では妥当でないことも確認された。混合の強さの指標である渦拡散係数を見積もったところ、2次循環の成長とともに増大かつ深化することが分かった。この事実も軌道運動流速が混合を引き起こす要因ではないことと整合的であった。渦拡散係数の最大値は分子拡散係数の数10倍以上と有意に大きく、先行研究の室内実験の結果と定量的にも一致するものであるが、深いところでは不一致が大きいことが明らかになった。これらの結果は、波成混合のパラメタリゼーションを構築する上で重要なデータとなる。 現場観測においては、和歌山県白浜沖の海象観測塔周辺の海底に設置していた音響ドップラー流速計を回収し、データの解析を行った。不良データの除去など一次処理を行ったところ、およそ一年間は安定してデータが取得できていることが確認できた。データに分散法を適用し乱流量を見積もると同時に、エネルギースペクトルから乱流運動エネルギー散逸率の推定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
数値実験に関しては、砕波しない波が単独で有意な乱流混合を引き起こすこと、その混合を引き起こすメカニズムは、波の軌道運動流速ではなく波の粘性により生じた流れと波の相互作用であることを、世界で初めて定量的に示すことができた。本実験で見積もられた混合は現実の海洋での混合より弱く、現実海洋での混合に対する寄与は小さいと考えられるが、そのメカニズムは、現実海洋での混合の主要因の一つであるラングミュア循環と同じであることから、本実験は現実海洋における”波と流れの相互作用による乱流混合”の低レイノルズ環境での再現実験と捉えることが可能である。”波と流れの相互作用による乱流混合”を直接数値計算で再現し、同混合の機構を解明したことは、大きな前進であったと言える。 現場観測に関しては、十分な期間のデータを取得することで、波が単独で混合を引き起こすと予想される状況下での様々なデータ、すなわち(混合を引き起こす要因である)大気強制力と波データ、(混合を担う)海洋乱流データ、そして(混合の結果を表す)水温データが揃った。このような世界的にも貴重なデータセットを取得できたことは、海洋観測塔のポテンシャルを活かした成果と言える。
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今後の研究の推進方策 |
数値実験に関しては、波の波長や振幅、成層強度を変えた実験を行ない、砕波しない波単独での混合の強度と深度がこれらのパラメターにどのように依存するのかを明らかにする。当初計画では得られるパラメター依存性から全球の混合強度の推定を行なう予定であったが、波単独での混合強度が現実海洋での混合強度よりも小さいと見積もられるため、全球分布の推定ではなくいつどのような時に波単独の混合が強いかを明らかにする。 現場観測データに関しては、風が弱くうねりが卓越している状況を抽出し、エネルギースペクトルから乱流運動エネルギー散逸率の推定を行ない、うねりが引き起こす乱流混合の推定を行なう。 なお、数値実験と先行研究の室内実験に差異が見られたことから、室内実験も追加で実施する。
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