研究課題/領域番号 |
19H01969
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
重 尚一 京都大学, 理学研究科, 准教授 (60344264)
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研究分担者 |
広瀬 正史 名城大学, 理工学部, 准教授 (40392807)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 地形性降雨 / 衛星搭載降水レーダ |
研究実績の概要 |
衛星搭載降水レーダデータ[熱帯降雨観測衛星搭載降雨レーダ(TRMM PR)、全球降水観測計画主衛星搭載二周波降水レーダ(GPM DPR)Ku帯降水レーダ(KuPR)]から地形性降雨の気候学的特徴を数km規模の水平分解能で抽出するため、主に高密度の地上雨量計網が展開されている台湾北部山岳域を対象とし、地形に関連した推定誤差や降水情報の地形との対応について調査を実施した。 地形に関連した推定誤差については、雨量計で観測している降雨をTRMM PRが捉え損ねている事例が多く、特に背の低い降水が卓越する冬季に多いことが分かった。衛星搭載降水レーダは発射したパルスの降水粒子からの反射波を観測しているが、地表面近くでは地表面での反射波が混入するため、観測出来ない。山岳域ではこのような地表面クラッター領域が広がってしまうため、背の低い降水が検出できなかったのだと考えられる。全球的にも地表面クラッターによって生じる降水推定誤差を評価したところ、低高度で増加する降水鉛直分布や検出されない浅い降水の影響が大きいため顕著な過小評価が判明した。特に強雨の入射角間統計の不一致やセンサー・アルゴリズムによる差異が改めて示され、衛星搭載降水レーダデータに内在する不確実性の理解が進展した。 降水情報の地形との対応については、TRMM PRデータを用いた0.01度分解能の降水分布や日周変化、GPM DPRデータを用いた規模別降水システムのサンプル数などを確認し、現時点での平均値の空間分布とサンプリング充足度について理解を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
観測特性の違いによって生じる低高度降水情報に関する誤差の補正方法の開発と評価が進み、入射角の大きい観測時の過小評価傾向を大幅に低減した高分解能降水データセットを開発する目途が立った。入射角ごとに見た降水の統計から、アルゴリズムに依存した課題も明らかとなっている。台湾北部山岳域における降水の局所的特徴については,0.1度では粗く,5年のGPM DPRデータではサンプルが不足しているため、TRMM PRの超高分解能データによる調査が進行中である。補正によって地表面クラッターの厚い山岳域は降水量が数割ほど増加し、補正による地域依存性が強まる。観測性能が落ちる山岳域については、地上検証などの追加調査が必要であることを再認識した。
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今後の研究の推進方策 |
推定誤差の理解は依然として重要な課題であり、データ間(TRMM PR,GPM DPR)の差異や複合データ(Ka帯レーダの利用)による減衰補正のパフォーマンスに関する調査を順次進める。観測が難しい山岳域における補正の妥当性を評価するため、他の降水シグナル(地上観測網や植生データ)の利用も検討している。データの質を高めるこれらの研究と並行して、現時点における補正手法を2つの衛星搭載降水レーダデータに適用し、新たな超高分解能降水気候値の開発に取り組み、地形に対する降水の構造的特徴(下層集中,高高度への発達状況など)の抽出を図る。
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