研究課題/領域番号 |
19H01971
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉本 憲彦 慶應義塾大学, 法学部(日吉), 教授 (10402538)
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研究分担者 |
高木 征弘 京都産業大学, 理学部, 教授 (00323494)
安藤 紘基 京都産業大学, 理学部, 助教 (00706335)
黒田 剛史 東北大学, 理学研究科, 助教 (40613394)
宮本 佳明 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 講師 (90612185)
野口 克行 奈良女子大学, 自然科学系, 助教 (20397839)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 大気重力波 / 金星 / パラメタリゼーション / データ同化 |
研究実績の概要 |
大気重力波は、運動量やエネルギーを輸送、再分配し、惑星大気において重要な働きを担う。本課題では、階層的な数値モデルを用いて、金星大気の重力波の諸過程を包括的に解明することが目標である。2019年度は予備実験として、惑星規模の大気重力波である熱潮汐波を除いた設定での、金星大気大循環モデルを用いた中解像度(T42L60;128×64×60格子点)での数値実験を行った。その結果、鉛直渦粘性がある程度小さい設定であれば、静止状態から(500年以上の)長時間積分することでスーパーローテーションが再現できることが示された。一方で、実現されたスーパーローテーションの構造は中緯度ジェットが強く、観測と整合的な赤道等速の構造は得られなかった。このことは熱潮汐波がスーパーローテーションの駆動に本質的ではないものの、その緯度構造に大きな働きをすることを示唆している。 また、これまで開発を進めてきた金星大気初のデータ同化技術を用いて、金星探査機「Venus Express」の紫外線カメラ観測の雲追跡によって導出された風速を同化し、熱潮汐波の構造変化とそのインパクトを調べた。これまでに、我々の金星大気大循環モデルで再現される熱潮汐波の位相が、観測とずれていることがわかっている。その結果、一日に一回程度の南半球昼面の雲層上端に限られた風速のみの同化であっても、熱潮汐波の位相がデータ同化で改善されることがわかった。さらにこの位相の改善は、全球的なスーパーローテーションの風速、温度構造に大きな影響をもたらした。本研究は金星大気における熱潮汐波の重要性を示した先駆的な成果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度までに、金星大気大循環モデルを用いた予備実験で1本、世界唯一の金星大気データ同化システムを用いた、実観測のデータ同化で1本、観測システムシミュレーション実験で1本、の計3本の査読付き論文を出版することができた。 特に予備実験では、現実的な太陽加熱と低安定度層を考慮した金星大気大循環モデルを、中解像度で超長時間の数値実験を行うことにより、子午面循環メカニズムのみで、高速のスーパーローテーションを再現したことが重要な成果である。その際、これまであまり調査されてこなかった鉛直渦粘性の感度実験を行うことで、鉛直渦粘性がある程度小さい設定であれば、どの場合でも高速なスーパーローテーションが再現される一方、それより大きい場合には、静止・スーパーローテーション初期値ともに、弱いスーパーローテーションに最終状態が落ち着くことがわかった。今後は実際の金星大気の鉛直渦粘性の値を規定していくことが重要になってくる。 また、データ同化による研究では、これまでテスト観測の同化しか試行していなかったのに対し、初めて実観測データの同化に成功したことが重要である。同化した観測データは、雲層上端高度70kmの南半球の昼面のみの限られた領域で導出された風速で、一日に一回程度の低頻度なものである。そのような観測であっても、温度場を含めた熱潮汐波の位相構造を改善可能であるだけでなく、全球的なスーパーローテーションの風速、温度構造を大きく修正することがわかった。この成果は今後の金星探査機「あかつき」の観測データの同化に向けても貴重な経験となる。
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今後の研究の推進方策 |
我々の金星大気大循環モデルでは、金星探査機「あかつき」および「Venus Express」の電波掩蔽観測で明らかにされた雲層下部の温度構造を整合的に再現することがわかっている。このため、次年度はこの成因についての解析を行う。また、雲層下部では、雲量が周期的に変動しており、惑星規模の大気重力波である赤道ケルビン波との関係が観測から示唆されている。このため、新たに簡略化した雲物理過程の開発を行い、これを金星大気大循環モデルに導入することを目指す。さらに、今年度は中解像度での長時間積分を行ってきたが、細かいスケールの大気重力波に着目するため、T639L260(1920×960×260格子点)の超高解像度数値実験への拡張を目指す。高解像度の計算にはスピンアップにたくさんの計算時間がかかることが予想されるため、中解像度から順次、高解像度化したリスタート計算を繰り返す。 一方、データ同化を用いた研究では、我々の金星大気大循環モデルで未だ再現できていない、雲層上端の赤道ケルビン波のデータ同化による再現を目指す。雲層上端の赤道ケルビン波を下層からの強制によって再現した、CCSR/NIESの金星大気大循環モデルの出力データを使用し、金星探査機の紫外線カメラ画像の雲追跡を想定した風速の疑似観測データを作成、この同化を行う観測システムシミュレーション実験を実施する。観測高度、観測領域、観測頻度などを変えた感度実験を行うことで、赤道ケルビン波のデータ同化による再現に必要な観測条件を特定する。特に赤道ケルビン波はスーパーローテーションの風速変動に関わると考えられているため、その運動量輸送についての調査を行う。
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