研究課題/領域番号 |
19H01973
|
研究機関 | 気象庁気象研究所 |
研究代表者 |
岡本 幸三 気象庁気象研究所, 気象観測研究部, 室長 (40584660)
|
研究分担者 |
和田 章義 気象庁気象研究所, 台風・災害気象研究部, 室長 (20354475)
石井 昌憲 東京都立大学, システムデザイン研究科, 教授 (70359107)
宮本 佳明 慶應義塾大学, 環境情報学部(藤沢), 講師 (90612185)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 台風上層場相互作用 / 衛星データ同化 / ひまわり / 風ライダー / 外出流 / トラフ / 寒冷渦 |
研究実績の概要 |
本研究は、2つの課題「1. 衛星データ同化の高度化による、高精度な大気上層解析場の構築」「2. この解析場を用いた、台風と大気上層場の相互作用メカニズムを解明」に取り組んでいる。 課題1では、3つのサブ課題(①ひまわり全天候同化、②マイクロ波陸域利用、③衛星風ライダー(DWL)利用)を進めている。サブ課題①では、雲効果を考慮した観測誤差モデルなどを開発・導入し、データ同化実験を行った。対流圏中上層の水蒸気場を改善する傾向はあるが、モデルの雲過少バイアスが悪影響を与えることが分かり原因や対処法を調査している。サブ課題②は、動的にマイクロ波射出率を推定する手法(DE)を開発し、特性調査やデータ同化実験・検証を行った。DEの効果が昼夜や降水の有無で分かれることが分かった。サブ課題③は、DWLを搭載したAeolus衛星の風データの品質の調査、同化処理の開発を行い、風などの基本場の予測や台風進路予測を改善することを確認した。 課題2では、④渦位インバージョン(PVI)法を用いた寒冷渦等の影響評価、⑤台風外出流の影響調査、⑥トラフや偏西風との相互作用評価、という3つのサブ課題を実行している。サブ課題④は、PVIを用いて台風と中緯度大気場との関係を調査し、偏西風との相互作用により偏西風の南北振動が強まる様子が見られた。また2018年台風12号について、大気波浪海洋結合モデルを用いて調査し、寒冷渦の強度は海面水温低下と潜熱減少の影響を受けたこと、初期値の違いの影響が海洋結合の影響よりも大きいことが分かった。サブ課題⑤は、台風周辺の大気の乱れ度合いを乱気流指標を使い解析した。また上層の乱れの元となるケルビン・ヘルムホルツ不安定の解像度依存性を調査した。サブ課題⑥は、上層擾乱が2012年台風第12号の発生に与えた影響を非静力学モデルで再現し、安定度や前線形成などのメカニズムを解析した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
いずれのサブ課題もほぼ予定通り進展している。コロナ禍において直接顔を合わせてのメンバー間の打合せや外部での発表はできなかったが、オンライン打合せの開催、オンライン会議への参加・発表、論文執筆・改稿はほぼ予定通り行った。 サブ課題①では、基本的な開発はほぼ終了しているが、大気上層場や台風進路予測の改善がまだ十分には得られていないので、上述したモデルのバイアスへの対応や、より高度な処理の導入(例えば観測誤差相関)に取り組んでいる。サブ課題②においても、DE本体の開発・実装は終了しデータ同化実験を繰り返し行って評価を行っている。夜間や降水時に予測を改悪することが分かってきたので、その原因をより詳細に分析し、DEの適用方法を変更させていく方法(品質管理など)を検討・試験している。またDE処理の気象庁現業システムへの導入も開始した。サブ課題③は、新たなメンバーに参加による研究実施体制の強化によって、Aeolusデータの特性調査や同化開発、評価が大幅に進展した。既に平均的な気象予測場や台風進路予測では改善を確認しているが、観測データの利用方法には改善の余地があるため調整・調査を継続しており、さらに台風域解析への直接的な影響についても詳細な調査を行っている。 課題2の他のサブ課題についても計画通り進展している。サブ課題④は、上述した2018年台風第12号と寒冷渦との相互作用に対する海洋結合や初期値の影響調査の結果について、論文にまとめている。サブ課題⑤は2019年台風第15号の上陸前の構造を解析した結果を、学術誌に投稿し改稿中である。サブ課題⑥は、上層の渦位場が、台風の温帯低気圧化後の再発達に与える影響を統計的に解析し、結果を査読付き国際誌に投稿し出版された。
|
今後の研究の推進方策 |
3年目となる今年度もそれぞれのサブ課題の検証・改良と現象分析・解明をさらに進める。そして課題1と課題2での知見の交流やデータ利用を促進するため、これまで行ってきた研究打合せに加え、気象研究所内サーバー上に専用のサイトを開設する。 サブ課題①は、モデルバイアスの影響の調査や、バイアス補正などのデータ処理方法の開発・改良を引き続き進め、データ同化実験を通して詳細な検証を行う。サブ課題②は、夜間の地表面温度や観測から地表面温度を推定する手法、陸上での降水の影響や判定方法について調査を進める。これらを反映させたデータ同化処理の高度化を行い、上層解析場・台風への影響を調査する。サブ課題③は、Aeolusデータの品質調査、同化処理の高度化を進め、台風周辺域での観測有効性の詳細な調査や、データ同化処理の開発・同化実験を実行する。 サブ課題④は、台風と中緯度大気場との相互作用及び大気場及び海洋場の不確実性が台風予測に与える影響調査を引き続き実施するとともに、2020-2021年の台風に関しても同様の視点で調査する。サブ課題⑤は、引き続き台風外出流等の大気上層場の乱れを調査するため、課題1のデータ同化実験から計算される乱気流指数の評価、対応する航空機観測との比較、ケルビン・ヘルムホルツ不安定の理論的考察や数値シミュレーションを用いた検証を行い、台風外出流と台風構造との関係について理解を深める。サブ課題⑥は、最近の台風から上層擾乱が発生・移動・温帯低気圧化に影響した事例を抽出し、そのメカニズムを解析する。
|