研究課題
昨年度開発した予備的な海底地すべり数値計算手法とその津波数値計算手法を大きく改良し、実際の再現実験に使用できるところまで高度化した。基本的な数値計算システムは地すべりの数値計算として開発されたTsunami Squareコードを用いた。その手法を海底地すべりの数値計算手法に改良し津波を計算するため、内部摩擦角・海底摩擦(マンニングの摩擦係数)・海水との相互摩擦を係数として導入できるよう高度化した。計算された海底地すべり数値計算結果を津波数値計算手法(JAGRUS)に入力できるよう改良し、津波はJAGRUSで計算できるよう高度化した。開発した手法の確からしさを確認するため、水槽での実験結果と計算結果を比較し、良好な結果が得られていることを確認した。海底地すべりによる大きな津波を発生させた1929年Grand Banks 地震(M7.2)再現実験を実施した。この海底地すべりにより震源近傍の海底ケーブルが次々と切断され、その切断箇所の特定から海底地すべりが広範囲で発生していたことが分かっている。まず、地すべりは海底傾斜の急峻な場所で発生すると考え、その層厚や摩擦係数を変化させ、計算された海底地すべりが海底ケーブルの切断箇所やその切断時間を再現できるよう調整した。次に得られた海底地すべり結果を入力して津波数値計算を実施し、カナダの検潮所(Halifax)で観測された津波波形の再現を試みた。海底地すべりの層厚や海底地すべりのタイミングを変化させ、観測津波波形を最も良く再現でき、かつ海底ケーブルの切断情報を再現できる海底地すべりモデルを推定することに成功した。また、日本海溝沿いで実施されたシービームによる海底地形調査結果を解析し、海底地すべりの痕跡を調査した。
2: おおむね順調に進展している
海底地すべりによる津波数値計算手法の高度化は順調に進んでおり、水槽実験結果の再現も出来ている1928年Brand Banksの海底地すべりによる海底ケーブルの切断位置の再現や津波波形の再現も進んでいる。1998年パプアニューギニア地震津波の文献調査も進んでいる。さらに南海トラフ沿いや日本海溝沿いでの海底地すべり地形の痕跡調査も実施してきた。
本年度は、1998年パプアニューギニア津波地震による津波の再現実験に着手する。1998年パプアニューギニア地震による津波は、パプアニューギニアの震源域近傍沿岸(シッサノラグーン沿岸)で極端に高かった事が知られている。その原因は、大地震により誘発された海底地すべりにより津波が励起されたこためと言われている。そこで、昨年度までに開発された海底地すべりとその津波を数値計算により再現する手法を利用して、シッサノラグーン沿岸での最大15mの津波波高分布の再現を試みる。海底地すべりの領域は地震後の海底調査によって明らかになっている領域とする。さらに、1946年アリューシャン津波地震による海底地すべり地形の文献調査を実施し、数値計算に用いる海底地すべり域を明らかにする。日本周辺、特に日本海溝や南海トラフ沿いで発生したと考えられる深海地すべりの地形データや浅部地盤構造のデータ収集・解析も継続して実施する。
すべて 2020
すべて 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 1件)