研究課題
これまで、地球の下部マントルは鉄がFe2+であると考えられてきたが、近年の研究によってFe3+が多量に存在することが報告されている。そこで本研究では、下部マントル条件でFe3+を含むマントル組成の融解実験に取り組んだ。その結果、マントル中の鉄がFe2+の場合と比べて、Fe3+の方が同じ温度・圧力条件で発生するマグマの量が増加し、またマグマの化学組成は著しくSiO2成分に枯渇することが示された。また、高圧力下での密度を求めたところ、含水条件かつFe3+の系で生ずるマグマは下部マントルの平均密度よりも低くなることが分かった。海水と反応して水を含んだプレートが深部に沈み込んでいくことを想定すると、遷移層では含水鉱物が高温まで安定であるためマグマが発生しないのに対し、下部マントルに到達すると充分水を含むことができる含水相が無いために脱水および融解が起こってマグマが生ずる。この様なマグマは密度差によって上昇し、遷移層に保持される。以上のような過程により、下部マントルの分化が進むことが分かった。さて、マグマ中の鉄がFe2+のもの(溶存種がFeO)とFe3+ )のもの(溶存種がFe2O3)では、圧力の増加に伴う密度の変化が異なる。低い圧力下ではマグマ中の溶存種がFe2O3の場合はFeOの場合よりも密度が低いが、本研究によってFe2O3を含むマグマは圧縮率が大きく、FeOのものと比べて高圧力下で密度逆転を起こすことが示された。これにより、Fe3+を含む下部マントルにおいて発生したマグマの密度を求めることができるようになり、マグマの移動を詳細に検討することが可能になった。
2: おおむね順調に進展している
本研究を推進するため、ドイツのバイエルン地球科学研究所およびドイツ電子シンクロトロン研究所に滞在して実験に取り組んだ。下部マントル条件下での融解実験を行い、発生するマグマの科学組成を明らかにすることができた。また、実験結果に基づいて地球深部の分化について議論を進められた。加えてマグマの密度測定を行い、高圧力下での任意の組成のマグマの密度を求める研究を進めることができた。この研究により、高圧力下でのマグマの密度変化のメカニズムを知ることができた。以上により、本研究は当初の計画どおり概ね順調に進展していると判断している。
今年度についても、ドイツのバイエルン地球科学研究所およびドイツ電子シンクロトロン研究所に滞在し、国際共同研究に取り組むことを計画している。本研究では特に揮発性成分の寄与に着目している。高温高圧下におけるマグマの密度測定について、温度・圧力・化学組成の範囲を拡大し、マグマ中の成分の部分モル体積を高圧下で決定することによって、融解と固化に伴って化学組成が連続的に変化するマグマの密度を知ることを目指し、この結果を基にして地球深部の化学的分化過程を議論する。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (16件) (うち国際共著 5件、 査読あり 8件、 オープンアクセス 9件) 学会発表 (36件) (うち国際学会 20件、 招待講演 1件) 図書 (1件) 備考 (1件)
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