研究課題
地球のマントルには地震波などの観測によってマグマの存在が示唆されている領域がある。我々はこれまでの研究でマグマと周囲のマントルとの密度差や粘度の圧力依存性の変化を調べ,地球深部でマグマが移動するのか滞留するのかを明らかにしてきた。近年の地球深部物質に関する研究によって下部マントルではFe3+が多量に含まれることが報告されている。また,我々の研究によって下部マントル最上部で発生するマグマはSiO2成分に乏しいことが示された。しかしながら,地球深部の高温高圧力下におけるマグマ中の各成分の部分モル体積は充分解明されていないため,密度に関して不確定性が存在する。このためこれまでの研究を発展させマグマ中のFe3+の部分モル体積を調べるための密度測定実験に取り組んだ。密度測定にはダイヤモンドを使用した結晶浮沈法を採用した。これは我々が開発した方法で、試料中にダイヤモンドを入れておき、高圧下で加熱してマグマを作る。ダイヤモンドよりもマグマが低密度の場合はダイヤモンドはマグマ中を沈降し、逆にマグマが高密度の場合はダイヤモンドが浮上する。この実験を繰り返して、マグマとダイヤモンドの密度が等しくなる条件を探す方法である。この密度測定の実験結果に基づいてマグマの状態方程式を決定することにより、マグマを構成する各酸化物成分の部分モル体積などの情報が得られる。今年度はマグマの組成を複数変化させて密度の組成依存性に着目した実験を行った。実験の結果,8~20 GPaまでの圧力下でFe2O3を含む超塩基性マグマの密度とFe2O3の部分モル体積を決定することに成功した。この研究によって地球深部ではFe2+のみを含むマグマとFe3+のみを含むマグマの密度がほぼ等しくなることを明らかにすることができた。
2: おおむね順調に進展している
本研究はドイツのバイエルン地球科学研究所およびドイツ電子シンクロトロン研究所に滞在して取り組む計画となっていたが、感染症の拡大に伴う渡航自粛などのためにドイツに渡ることを断念した。このため、代替措置として国内の施設で実験に取り組んだ。使用できる高圧セルのサイズや発生可能圧力などに違いはあるものの、現時点で可能な範囲で本研究を進捗させることができた。まず高圧セルに改良を加えて、これまでドイツで使用していた試料容器サイズに近づけることに成功した。本研究では容器中に入れたダイヤモンドが浮上・沈降できる充分なスペースを確保する必要があるため、試料容器サイズは極めて重要である。加えて、圧力発生装置部品も従来サイズよりも拡大したことで、より大型のセルを使用することができるようになった。装置が発生できる最大荷重に違いがあるためドイツで行う場合と完全に同じにすることはできないが、現時点で実施可能な最大限の範囲で研究に取り組むことができた。
もしも感染症の拡大状況が改善されれば、当初の計画通りにドイツのバイエルン地球科学研究所およびドイツ電子シンクロトロン研究所に滞在して実験に取り組む。もしも感染症の状況が改善されず、渡航自粛などの理由でドイツに渡ることができない場合には、今年度と同様に国内施設を利用する。これまでの実験結果を踏まえ、今後は超マフィックマグマに含まれる各成分の部分モル体積を高温高圧下で決定して、任意の組成での密度計算ができるようにすることを目指す。特にキンバーライトなどに含まれ、揮発性元素でもあるアルカリ元素に着目する。実験手法はこれまでどおり、主にダイヤモンドを用いた結晶浮沈法で密度を決定する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (8件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 4件) 学会発表 (15件) (うち国際学会 5件) 備考 (1件)
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