研究課題/領域番号 |
19H01987
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 宏幸 東京大学, 地震研究所, 教授 (20503858)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ミュオグラフィ / ミュオン / エネルギースペクトル / 宇宙線 |
研究実績の概要 |
これまでに、火山内部のマグマ動態の検出やピラミッド透視による玄室の新発見などを通して、世界のセーフティーへ社会実装できる強いポテンシャルを示してきた素粒子ミュオンを使った巨大物体透視技術ミュオグラフィの特長は「巨大物体内部における絶対密度の3次元空間分布が得られる」であるが、密度導出に必須となるエネルギースペクトルを適用できる範囲が不十分なため、正確な絶対密度が導出できないケースが多々あった。この問題を解決するために、本研究では、全方位型スペクトロメータを開発し、これを長期運用することで、全方向においてエネルギースペクトルを高い統計精度で測定、絶対密度の導出を可能とする世界標準スペクトルデータを作成、公開する事を目的としている。ミュオグラフィは上半球から到来するミュオンほぼ全てを角度毎に測定し、マッピングする技術であるから、あらゆる方向のミュオンのエネルギースペクトルが必要である。これを測定するために天頂角、方位角方向に自在に回転させる事ができる、スペクトロメータを開発した。具体的には(A)高精細ミュオグラフィ観測システムを高度化する(桜島で成功裏に長期運用している高精細ミュオグラフィ観測システムを小型化、高度化する)ことにより軽量超高角度分解能検出器の実装すること、(B)(総厚5 mの鉛を実装する)重量物を積んだスペクトロメータを天頂角方向に回転できる機構の開発(C)他グループにより測定されているある角度のミュオンエネルギースペクトルとの比較を通したスペクトロメータの評価を達成したことにより、スペクトロメーターの運用を開始した。ミュオンフラックスは天然の値に限られているが、装置の連続的な運用が可能となり、得られたデータの評価に必要な十分な統計量を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本計画はおおむね順調に進展している。計画では、上半球から到来するミュオンの多方向のミュオンスペクトルを測定する為に天頂角、方位角方向に自在に回転させる事ができるスペクトロメータを開発する事となっていたが、これを以下の項目を開発することで達成した。 ・これまで、桜島で成功裏に長期運用している高精細ミュオグラフィ観測システム(機密性の高い箱の中にタングステンワイヤーを狭い間隔で張ったもに高電圧を印加する事でミュオンを捉える装置)の小型化を行い、スペクトロメーターに実装できるようにした。 ・(総厚5 mの鉛を実装する)重量物を積んだスペクトロメータを天頂角方向に回転できる機構を開発した。 ・既に、複数の方向からのミュオンエネルギースペクトルを測定する事により、既に他グループにより測定されているある角度のミュオンエネルギースペクトルと比較する事ができるようになり、スペクトロメータの評価を行い、翌年度からの機器の運用に入る状態にまで持っていった。 ・既存のシステムを小型化することで、桜島で運用している装置の安定性が失われる事は無く、実際、装置の安定的かつ連続的な運用が可能となった。その結果、得られたデータの評価に必要な十分な統計量を得た。
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今後の研究の推進方策 |
解析方法の最適化を検討しつつ翌年度からの長期運用の計画を立てる。解析方法を最適化するためには、その方法を評価するために十分な統計量を持ったデータが必須であるが、装置の安定的かつ連続的な運用により、目的とするデータ量を確保した。今後更に、複数検出器を通過したミュオンのトラッキングエフィシエンシーと角度精度との間のトレードオフにつき、スタディを行い、最適解を見つける。最終的には、本研究で開発した、全方位型スペクトロメータを長期運用することで、全方向においてエネルギースペクトルを高い統計精度で測定、絶対密度の導出を可能とする世界標準スペクトルデータを作成、論文等により世界へ公開する事を計画している。
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