研究課題/領域番号 |
19H01991
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河上 哲生 京都大学, 理学研究科, 准教授 (70415777)
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研究分担者 |
坂田 周平 東京大学, 地震研究所, 助教 (20772255)
M Satish‐Kumar 新潟大学, 自然科学系, 教授 (50313929)
東野 文子 岡山理科大学, 理学部, 助教 (60816685)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 塩水流体活動 / 下部地殻 / 変成岩 / 部分融解 / 南極 / 大陸衝突 / 剪断帯 / 地質学 |
研究実績の概要 |
南極セール・ロンダーネ山地(SRM)の形成テクトニクスを理解し、地殻流体活動の温度-圧力-時間条件を制約するために、第51次および第61次日本南極地域観測隊で採取したブラットニーパネ、メーニパ、タンガーレン、パーレバンデ南島など、同山地一帯の試料を用いて、温度-圧力履歴の推定を行った。また、メーニパについてはCaザクロ石やチタン石を用いたU-Pb年代測定を実施し、1つの試料中から、ザクロ石が成長した変成年代と分解・再結晶化した変成年代(約610 Maと約530 Ma)を制約することに成功した。メーニパおよびタンガーレンにおいて、それぞれ粗粒石英とザクロ石中から娘鉱物を持つ流体包有物を見出した。ラマン分光分析により、これらの流体が主としてCO2+CH4±N2の組成を持つことを確認した。さらに、SRMに広域的に散在する、硫化鉱物の鉱化をもたらした流体の起源を制約する目的で、硫黄同位体比の測定を進めた。 SRMでの流体活動と比較する地域の研究については以下のような成果を得た。フィリピン・パラワン島のメタモルフィック・ソールの試料について、剪断帯中のレンズとして産する岩石とマトリクスの変形した岩石の温度-圧力履歴を推定し、沈み込み段階の温度-圧力-変形履歴が保存されていることを明らかにした。また、マトリクスの変形に伴う物質移動を制約する目的で、40試料の全岩化学組成の決定を行った。更に、2次的な流体包有物のマイクロ・サーモメトリーを行った結果、現在の海水に近い塩濃度をもつことがわかった。 南極リュツォ・ホルム岩体に記録された下部地殻の部分溶融現象の年代を制約するため、ジルコン分離作業を行い、U-Pb年代測定の準備を進めた。領家帯青山高原地域の部分溶融岩のザクロ石中からは、COH流体の包有物が見つかり、昇温期の部分溶融過程において流体相が共存していたことを初めて明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19感染拡大の影響で、共同研究機関に出張しての機器分析が思うように進められなかったが、第61次日本南極地域観測隊で南極セール・ロンダーネ山地から持ち帰った試料の薄片化処理、EPMA分析、流体包有物のラマン分光分析などは順調に進んでおり、着実に新しい知見を得ることができている。また、共同研究者間のディスカッションもオンライン研究集会で行うことができた。 比較対象地域であるパラワン島のメタモルフィック・ソールから塩水流体活動を見出すことができ、領家帯青山高原地域からはCOH流体活動を見出すことができた。南極・リュツォ・ホルム岩体の温度-圧力-時間-部分融解-流体活動履歴の構築も着実に進んでいる。 このように、昨年度同様、セール・ロンダーネ山地および比較対象地域の両方の研究の進捗が順調であるので、研究プロジェクト全体としてもおおむね順調に進んでいると言える。
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今後の研究の推進方策 |
今後も第61次日本南極地域観測隊で採取した処理待ちの南極試料の薄片化とEPMA分析を進め、セール・ロンダーネ山地のできるだけ広い地域で、温度-圧力-時間履歴の構築を進める。このために、COVID-19の感染状況が落ち着いた時期をうまく利用して共同研究機関に出張し、効率的に年代測定や微量元素・同位体比測定を行う。さらに、出来るだけ多くの試料について流体包有物のラマン分光分析を進め、塩水流体の可能性が高いものに関してはマイクロ・サーモメトリーを実施して塩濃度の推定を進める。共同研究者が参加するオンライン研究集会を年に2回程度行い、共同研究者間の議論を深める。オンライン研究集会には、若手研究者にも参加を呼びかけ、共同研究ネットワークを構築していく。
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