研究課題
南極セール・ロンダーネ山地(SRM)の形成過程を理解し、地殻深部における塩水流体活動の温度-圧力-時間条件と塩水の起源を制約する目的で、①中央SRMブラットニーパネおよび東部SRMバルヒェンの泥質片麻岩・苦鉄質片麻岩について、硫黄同位体比を決定した。その結果、塩水流体の通過痕である角閃石-ザクロ石含有黒色脈の母岩である苦鉄質片麻岩は、他の泥質片麻岩に似た硫黄同位体組成を示した。このことは同試料が黒色脈を作った塩水流体の影響を受けており、塩水流体が周囲の泥質片麻岩起源であるか、その組成的影響を強く受けていることを示唆する。②中央SRMメーニパの試料について、昨年度に引き続き温度-圧力-時間履歴の精密化に取り組み、下部地殻深度からの岩石の平均上昇速度を見積もった。③パーレバンデにおける後退変成期の塩水活動の詳細を明らかにした。④ブラットニーパネの単一の泥質片麻岩から、時計回りと反時計回りの温度圧力履歴を見出し、その形成過程を議論した。過去の研究で流体活動起源とされる藍晶石-石英脈を見出し、基質の硫化鉱物形成に伴う流体活動よりも後の流体活動を見出した。これらの情報は塩水流体活動がどのような場で起きたかの理解に重要である。SRMでの流体活動と比較する地域については以下のような成果を得た。フィリピン・パラワン島の沈み込み帯高圧変成岩の産状と全岩化学組成をもとに、沈み込み帯で起きている、異なる岩石種間の混合過程と、塩水流体を介して起きる物質移動(元素の溶脱)過程を読み取る方法を構築した。領家帯青山高原地域では、部分溶融岩のザクロ石中に包有されるCOH流体包有物が、部分溶融帯全域から見つかることを明らかにし、COH流体存在下での中部地殻の溶融が広く起きたことを明らかにした。また、領家帯三河地域の部分溶融帯における紅柱石-石英脈をつくる流体活動の時期と温度圧力条件を決定した。
3: やや遅れている
コロナ対応で研究に割ける時間が減少していることに加え、南極セール・ロンダーネ山地(SRM)における温度-圧力-時間履歴が、予想よりも複雑で多様性に富んでいるためその解析に時間をとられている。また、研究に割ける時間の減少に伴い、南極より持ち帰った試料の薄片化がやや遅れており、剪断帯岩石の解析が予定より進んでいない。初生的な流体包有物がなかなか見つからないため、具体的な塩水流体の組成決定に関しては思うようには進んでいない。
温度-圧力-時間履歴が、予想よりも複雑で多様性に富むことは、仕方がないことであるので有望な試料に絞って研究を進める。大規模剪断帯岩石の薄片作成と分析を優先的に進め、流体流入の有無とその起源の制約のための分析に重点を置く。
すべて 2021 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件) 学会発表 (27件) (うち国際学会 11件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Journal of Metamorphic Geology
巻: 40 ページ: 717ー749
10.1111/jmg.12644
http://www.eps.sci.kyoto-u.ac.jp/research/advance/11/index.html